
貨幣発行益をベーシックインカムの財源にする方法
前回の記事の続きです。
最後に、BIの財源を考えるうえで、参考になるアイデアを紹介しておきましょう。それは、貨幣発行益を財源にする方法です。
貨幣発行益とは、貨幣を発行することで得られる利益のことです。たとえば1万円札の製造コストは数十円程度ですが、それが1万円として流通すれば、その差額分の価値が発行者にもたらされます。この「差額」が、貨幣発行益です。
ただし、ここでは、そうした一般的な定義ではなく、政府や銀行などそれが許された機関には好きなだけ(もちろん一定の制約はありますが)貨幣を発行できる排他的な能力、もしくは権利と捉えた方が理解しやすいかもしれません。
現在の貨幣発行の仕組み
それを踏まえた上で現在の貨幣発行の仕組みについて見てみましょう。現状、お金を「つくっている」のは主に民間銀行です。銀行は、企業への貸し出しを通じて「信用創造」を行い、新しいお金を生み出しています。企業に入ったそのお金は賃金という形で家計に入り、それが消費という形で企業に戻ります。さらにそれが銀行に返済されてお金が世の中から消える、という流れです。これが現在の一般的な貨幣発行とその消滅の仕組みです。
ここからもわかるように現状、貨幣発行益を享受しているのは主に銀行と企業です。一方、家計は労働を通してその「おこぼれ」を拾っているにすぎません。しかし、そのおこぼれさえも家計に十分届かなくなっているのが、現代経済が直面する大きな問題であるのはすでに見た通りです。
お金が生まれる起点を「企業」から「家計」に変える
こうした問題を含め、現代経済が抱える多くの問題を抜本的に解決する秘策として期待されているのが、現行の貨幣発行システムそのものの変革です。具体的には、政府がお金(政府紙幣)を発行し、それを直接家計に給付するという新たな流れを作ることです。要するにお金の流れの起点を、企業から家計に変えるということです。これにより、経済活動は、家計に生まれた(配られた)お金を企業が回収するという形に変わります。
このようにすれば、貨幣発行益は銀行や企業ではなく、家計と政府が直接享受することになります。そうなれば、家計は「おこぼれ」を拾うため多大な努力を強いられることがなくなり、必然的に貧困問題も解決します。これは、貨幣発行益を財源にしたBI(政府通貨によるBI)といってもよいでしょう。
なお、これは戦前のアメリカで検討された「シカゴプラン」と基本的に同じ仕組みです(「シカゴプランについてはこちらの記事でも紹介しています→貨幣改革の系譜──四人の先駆者が見据えた「お金の未来」)。
一方、現状とは逆に家計からの「おこぼれを拾う」立場に変わった企業や銀行は、そのための努力を強いられることになりますが、これは大きな問題ではありません。なぜなら、銀行をふくむ企業は本来、お金という「おこぼれ」を集めることを目的に作られた組織だからです。努力を怠り、その競争に負ければ退場を迫られるのは今も同じであり、しかも環境が厳しくなったり、緩くなったりするのは経済の常です。したがって、貨幣発行の流れが変わったからといって今以上に特別に保護される必要はありません。むしろ、これまでが優遇されすぎていたと言っても良いくらいです。
もちろん、銀行の信用創造をなくしたら企業の資金需要にどう対応するのか、政府紙幣の裏付けとなる供給力をどう見積もるのかなど、解決すべき課題は少なくありません。それでも、この方法には検討するだけの価値は十分あります。現在のように「お金が足りないから何もできない」という後ろ向きの発想から脱却できるだけでなく、現代経済が抱える矛盾を根本から解決できる可能性を秘めているからです。
ちなみに上記の課題に対しては、既存の信用創造を残しつつ、BIの分だけを政府通貨で賄うという折衷案も考えられます。これならBIの財源を確保しつつ、企業の資金需要に対しては従来通り、銀行が柔軟に対応できるため、とくに問題は生じないと思われます。いきなり仕組みを全て取り替えるのではなく、このように少しずつ変えていくのが現実的なのではないでしょうか。
以上、BIの財源問題について様々な角度から考察してきました。これまでの考察からもわかるようにBIの財源は間違いなくあります。「ないように見える」のはある種の錯覚にすぎません。さらにいえば、政府通貨の発行という隠し球もあります。したがって、このシリーズの冒頭で述べた通り、「BIの財源問題」なるものは、実は最初から存在しない幻の問題であるといえるでしょう。
