
社会問題の解決ーーBIがもたらす第五の変化
ベーシックインカム(BI)がもたらす「表層的な変化」として、最後にもうひとつ挙げておきましょう。それは、「社会問題の解決」です。具体的には以下のような問題の解決が期待されます。
1.貧困が解消される
BIは、貧困を直接的に解消する力を持っています。貧困とは突き詰めれば「生活に必要なお金がない状態」であり、BIはそのお金を無条件で給付する制度だからです。
もちろん、「お金を与えても浪費してしまい、貧困から抜け出せない人」もなかにはいるでしょう。しかし、そのような人は、そもそも医療や行政の面からなんらかの支援が必要な人、つまり福祉の対象となる人です。そうした例外的なケースに対しては、別途、適切な支援を提供すべきです。BIは万能薬ではありません。カバーしきれない問題に対しては、現状、そうであるように個別に対応していく必要があります。
2.少子化に歯止めがかかる
BIには、少子化に歯止めをかける効果も期待できます。生活に一定の余裕が生まれ、将来に対する不安が和らげば、子育てに踏み出す心理的・経済的ハードルが下がるからです。
「BI目当てで過剰に子どもを持つ人が増えるのではないか」という懸念もありますが、その可能性は実際には限定的でしょう。ただし、未成年者への給付については、別途慎重な議論が必要であることは間違いありません。
3.労使関係の健全化
BIは、労使関係のあり方にも大きな変化をもたらします。生活が保障されることで、働く側は「辞めても生きていける」という選択肢を持てるようになるからです。
これは、労働者の交渉力が高まることを意味します。雇用主が優位な立場にあぐらをかき、本人の意思を無視して過酷な労働を強いるといったやり方は、次第に通用しなくなるでしょう。その結果、不当な圧迫と泣き寝入りの上に成り立っていたブラック企業は、自然と淘汰されていくはずです。
4.犯罪が減る
BIには、犯罪を抑止する効果も見込まれます。犯罪の多くは、経済的不安や過剰なストレスを背景に発生します。しかし、BIによって生活が保障されれば、少なくとも「生きていくためのお金」に関するストレスは大幅に軽減されます。そうなれば、他のストレスが重なったとしても、全体としての負荷は確実に小さくなり、結果として犯罪に至るケースも減少していくでしょう。
5.いじめも減る
BIは学校や職場でのいじめ抑止にもつながります。いじめの背景には多くの場合、加害者自身のストレスがありますが、BIによって生活が保障されれば、物心両面でのゆとりが生まれ、ストレスを抱えることが少なくなります。ストレスが少なくなれば、当然、いじめの動機は生まれにくくなります。またBIによって生じる経済的・心理的余裕は集団全体に寛容さと一体感を育む可能性もあります。結果として学校や職場におけるいじめは減少するでしょう。
6.クレーマーが減る
BIが導入されるとカスタマーハラスメントなどのクレーマーも減ると予想されます。クレーマーの意識の裏にあるのは、「お客様は神様」という発想ですが、これは「お金という絶対権力をもつ自分は何をしてもいいという」傲慢さを正当化するものです。そして、ここにある貨幣権力の非対称性こそがクレーマーを生む温床を育んできた元凶にほかなりません。
BIは、そうした貨幣権力の非対称性を是正する制度です。一定額のお金を全国民に配布することは貨幣権力を民主化することであり、貨幣権力の民主化はすなわちその非対称な構造を打ち破るものだからです。それにともない、クレーマーがよって立つ「お金を持つ自分は特別だ」という発想の根拠が消滅し、結果としてクレームは減っていくことになるでしょう。
7.DV問題の改善
BIは、ドメスティック・バイオレンス(DV)問題の改善にも寄与します。被害者が新しい生活を始めるための経済的ハードルが下がり、加害者から逃れやすくなるからです。
また、生活の安定は加害者側のストレス軽減にもつながり、暴力そのものが発生しにくくなる可能性もあります。さらに、BIが個人単位で支給されることで、「俺が養っている」という経済的支配がしにくくなる点も重要です。それもまたDVの発生リスクを低下させる要因となるでしょう。
8.環境問題への貢献
BIは、環境問題の解決にも間接的に貢献します。現在の環境危機の背景には、大量生産・大量消費を前提とした経済構造と過剰な利益至上主義があります。要するに際限のない貨殖欲求が、環境破壊を撒き散らす経済システムを生み出したのです。
BIは、こうした過剰な貨殖欲求を鎮める働きを持ちます。貨幣権力が民主化され、お金の魅力が相対化されることで、「もっと稼がなければならない」という強迫観念が弱まるからです。その結果、大量生産・大量消費にブレーキがかかり、環境への負荷も軽減されていくでしょう。
さらに、BIは投資スタイルにも変化をもたらします。将来不安が減少することで、リスク耐性が上がり、これまでのように短いサイクルで利益を回収する短期的投資から、長期的な投資へとシフトする可能性があります。それにともない、森林再生や自然保護など環境維持力を高める長期的な事業への投資が促され、結果的に地球環境の改善にも寄与することが期待されます。
9.民主主義の強化
BIは民主主義も強化します。理由はふたつあります。
ひとつ目は、人々が政治に関心を持ちやすくなることです。生活の余裕が生まれれば、政治に関心をもつ自由な市民が増えます。これにより、投票率の向上が見込まれるだけでなく、市民が主体的に政治に参加する土壌が育まれます。
ふたつ目は、政治家を目指す際のハードルが下がることです。BIがあれば、選挙に落選しても生活を維持できるため、財産や家柄に恵まれない人でも挑戦しやすくなります。これによって、多様な背景を持つ人材が政治の場に参入しやすくなり、それがまた民主主義の基盤を強化することにつながります。
BIを「国家が国民を支配する制度だ」と批判する声もありますが、実際には逆です。BIは、国家が国民を従属させるための制度ではなく、国家に対する主導権を国民が持ち続けるための制度なのです。
BIには、行政コストの削減や地方活性化など、他にもさまざまな利点があります。しかし、BIが社会問題を解決する上でいかに大きな役割を果たせるかは、ここに挙げた事例だけでも十分理解してもらえるのではないでしょうか。
