「憧れの職業」と「忌避される職業」を分けるのも社会的物語

現代社会には、さまざまな職業があります。

その中には「憧れの職業」と呼ばれるものもあれば、「できれば避けたい」「なんとなくイメージが悪い」とされがちな職業もあります。

こうした評価の差はどこから生まれるのでしょうか。報酬や仕事内容だけでは説明しきれないこの現象を読み解く鍵が、「社会的物語」です。

まずは医者を例に考えてみましょう。

医者は現代で最も尊敬され、社会的地位も高い職業の一つです。しかし歴史を振り返ると、その評価は現代のものとは異なっています。

江戸時代以前、医師という職業は必ずしも尊敬の対象ではありませんでした。むしろ「血」や「病」といった「ケガレ」を扱う職業として、一段低く見られる場合すらありました。

しかし、医者という仕事内容が本質的に変わったわけではありません。変わったのは、医者という職業に対する社会の見方――すなわち「社会的物語」の方です。社会的物語が変わったことで、その社会的地位が大きく変容したのです。

過酷なのに人が集まる仕事がある理由

もう一つ興味深い例として、伝説的な南極探検隊の隊員募集コピーを見てみましょう。

「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の日々。絶えざる危険。生還の保証なし。ただし、生還の暁には名誉と称讃を得る。」

そこにあったのは、“3K職”を遥かに上回る過酷な仕事の条件です。しかし、この求人には応募者が殺到したと言われています。

なぜそんな過酷で成功の保証もない、なんなら死ぬ可能性の方が高い仕事に、多くの人が魅力を感じたのでしょうか?

それは「南極探検」という行為に付随する社会的物語、つまり「勇気」や「挑戦」「誇り」「栄誉」といったストーリーに対してです。この社会的物語が、過酷な3K労働を“名誉ある仕事”へと変えたのです。

個人の中の“物語”も評価をつくる

社会全体の物語だけでなく、個人が内面に持つ物語も職業のイメージに大きな影響を与えます。

たとえば大工という職業をどう評価するかは、人によってまったく異なります。

ある人にとって大工は「技術を活かして家をつくる、誇り高く男らしい仕事」です。一方で、別の人にとっては「ヤンキーが多い、底辺の仕事」に映るかもしれません。

仕事内容は同じであるにもかかわらず評価が割れるのは、個人が身につけている価値観、つまりその人自身の「物語」の違いによるものです。

職業の価値は「社会的物語」で変わる

このように、職業が「憧れ」になるか「嫌われる」かは、単純にその仕事内容や苦労の度合いで決まるわけではありません。

社会がその仕事にどんな意味づけを与えているのか、また個人がどんな物語を抱いているのかによって、その価値は大きく変わります。

私たちは職業そのものを評価しているように見えて、じつはその背後にある“物語”を評価しているのです。

もし、ある職業のイメージを変えたいなら、その職業にまつわる社会的物語を書き換えることが鍵になるのかもしれません。

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