
貨幣権力の民主化──市民の手に経済的自由を取り戻すために
前回まで、BI導入に伴う深層的な変化として「経済の駆動原理の変化」と「社会的物語の書き換え」について考察してきました。
今回はもうひとつの変化である「貨幣権力の民主化」」について考えてみましょう。
貨幣権力とは、すでに考察したように貨幣を通じて他者や物事を自由に操る力のことです。資本主義社会では、貨幣は単なる交換手段や価値の貯蔵手段を超え、他者を支配する権力として作用します。例えば、企業は賃金を支払うことで労働者の時間と労働力を支配します。また、依頼主は報酬を出すことで受注者を意のままに働かせることができます。さらに富裕層や企業は資本投資によって市場と経済をコントロールするだけでなく、献金などを通して政治にも大きな影響力を及ぼします。このように現代において貨幣はある種の権力装置となっています。
ところが、現代社会ではこの貨幣権力がごく少数の手に集中しています。世界の富は、上位1%の人々が残りの99%と同額の資産を保有するといわれていますが、これは貨幣権力の極端な偏りを示す象徴的な事例です。そして、このような偏りは、貧困だけでなくさまざまな社会の歪みの原因となっています。したがってそれらを解消するには、まず貨幣権力の集中を是正することが不可欠となります。
では、どうすれば貨幣権力の集中を是正することができるのでしょうか?
この問題を考える上で参考になるのが、普通選挙制です。
かつて政治権力は特権階級に偏っていましたが、普通選挙制の導入によってその偏りが是正され、政治権力の民主化が実現しました。これにより、政治権力はある程度、国民全体に均等に分配され、一部の者が独占することを防ぐ仕組みを構築することができたのです。
この歴史を振り返れば、次に私たちの社会が求めるべきものが貨幣権力の民主化であることは明らかでしょう。政治権力は議会制度と普通選挙によって市民の手に取り戻されましたが、貨幣権力はいまだ野放し状態にあるからです。政治権力による抑圧からは辛うじて解放された私たちですが、貨幣権力による抑圧からは依然として解放されていないのが現状です。
ここにBIが担うべき歴史的使命があります。
BIは、市民全員に一定額の所得を無条件で保障する仕組みです。これにより市民一人ひとりが経済的な基盤を取り戻すとともに、貨幣権力の極端な偏りを均すことができます。言い換えれば、BIとは貨幣権力を市民の側に再分配し、民主化する装置なのです。
このプロセスは、かつて政治権力を市民に取り戻した普通選挙制の導入にも匹敵する、歴史的な転換点になるでしょう。
そして、これは今の社会がポスト資本主義社会へ移行するための必須条件でもあります。政治権力と貨幣権力という二つの権力が市民の手に取り戻されなければ、それはたんに今の社会の延長であり、ポスト資本主義社会とは呼べないからです。そして、そのポスト資本主義社会への扉を開く決定的な鍵となるのがベーシックインカムなのです。
貨幣権力の民主化は、経済の未来を考える上で避けて通れないテーマです。私たちは政治の民主化を実現した歴史を再確認し、その次に何を民主化すべきかを考える時期に来ています。その問いのひとつが、まさにこの貨幣権力の民主化なのです。
