社会的物語が経済を動かす──広告が示す「見えないエンジン」

私たちの社会には、人々が意識的・無意識的に共有している「社会的物語」があります。価値観、信念、歴史観、そして人生の目的や成功像といった「社会の空気」をつくる物語です。

この社会的物語は経済にも深く関わっています。経済を根底部分で駆動させているのもこの社会的物語だからです。

勤労道徳がつくった資本主義の「物語」

社会的物語と経済の関係は「勤労道徳」を切り口にすると理解しやすくなります。

資本主義経済がこれほど発展した背景に、勤労道徳があったことは広く知られています。なかでもしばしば言及されるのがキリスト教や儒教の勤労道徳です。キリスト教、とくにプロテスタンティズムの倫理観が資本主義の発展と深い関係があることを指摘したのは19世紀から20世紀初頭にかけて活躍した著名な社会学者、マックス・ウェーバーです。

また、近年では、日本をはじめとする東アジア諸国の急速な経済成長の背景に、勤労を尊ぶ儒教的価値観があるという見方も広く受け入れられるようになりました。

勤労道徳を「社会的物語」の一形態と考えるなら、経済活動がこうした物語によって支えられ、駆動されてきたのは紛れもない歴史的事実だと言えるでしょう。

もっとも世俗化が進んだ現代では、宗教的な教えがそのまま語られることはほとんどありません。多くの場合、より即物的な社会規範や価値観、大衆受けする思想として登場します。

「努力すれば成功する」「成功こそ人生の目的」「成功は貨幣の保有量が示す」といった、いわゆる「成功哲学」はその典型例です。とりわけ、第二次世界大戦後、世界の人々の生き方に大きな影響を与えたアメリカンドリームは、現代の物質主義的風潮を色濃く反映した社会的物語であったといえるでしょう。

一方、これを逆から見れば、社会的物語が欠落した社会では、経済は円滑に回らないともいえます。経済を動かすのは人であり、人は社会的物語に従って動くものだからです。たとえば、途上国の一部がいまなお経済発展できない理由のひとつとして、適切な社会的物語の不在が指摘されていますが、これは説得力のある指摘です。いずれにせよ、社会的物語と経済が密接に結びついていることは間違いないといえるでしょう。

広告が教えてくれる「社会的物語」と経済の強固な結びつき

この社会的物語と経済の密接な関係は、広告という鏡を通すとよりくっきり見えてきます。

広告、とくに広告コピーは、社会的物語の存在を前提に成立するものです。社会が共有している価値観がなければ、コピーは意味を持ちません。これは単なる比喩ではなく、広告制作の実務においても明確な事実です。

たとえば戦後日本の高度経済成長期を代表する名コピーに「いつかはクラウン」があります。これはトヨタの高級車クラウンのキャッチコピーですが、いうまでもなくここには「クラウンに乗るあなたは社会的に成功した人である」という暗黙のメッセージが込められています。

そして、このコピーが人々の心をつかんだ背景には、「クラウンのような高級車に乗ることが社会的成功の証である」という社会的物語の存在があります。この物語があったからこそ、このコピーは人々の心を捉え、多くの人が競ってクラウンを購入しようと店頭に並んだのです。

しかし、当たり前ですが、もしそのような物語が存在しなかったなら、このコピーが人々の心を動かすことはなかったでしょう。クラウンの販売台数も伸びず、後世に語り継がれる名コピーとなることもなかったはずです。というより、そもそもこのコピー自体、生まれなかったでしょう。広告コピーというのは、社会的物語という文脈の中ではじめて意味をもつものであり、またそれを利用して商品に新たな意味を付与するものだからです。つまり、コピーというのは特定の意味を生む文脈としての社会的物語がなければそもそも作りようがないのです。

このように、広告は社会的物語と不可分の関係にあります。そして広告は現代資本主義を動かす最大のエンジンのひとつです。つまり、広告が社会的物語に依存しているという事実は、そのまま「経済が社会的物語に依存している」ことを意味します。

社会的物語の書き換えは、社会と経済の書き換えである

広告、消費、働き方、成功観、人生の目標。これらの背後にはいつも「社会が信じている物語」があります。

その物語が変われば、行動が変わります。
行動が変われば、経済が変わります。
経済が変われば、社会が変わります。

したがって、ポスト資本主義社会を考えるうえで、社会的物語を無視することはできません。社会的物語を書き換えるということは、経済を変えると同時に社会そのものを変えることだからです。

私たちがどんな未来をつくるのかーー。それは、どんな物語を共有する社会を選ぶのかという問いに他ならないのです。

広告


もう書けないとは言わせない!
三行から組み立てる超ロジカル文章術