ベーシックインカムは、ポスト資本主義社会への移行を促す

ここまで、ベーシックインカム(BI)が必要な理由として、「資本主義が行き詰まっていること」、そして「その打開策としてBIが有効であること」の二点を挙げ、それぞれについて詳しく論じてきました。しかし、BIが必要とされる理由はそれだけではありません。そこにはもうひとつ、別の理由があります。それは、BIには、ポスト資本主義社会への移行を促す強力な作用があることです。

ポスト資本主義社会の定義については、後ほど改めて触れますが、ここでは「今の資本主義社会の行き詰まりを乗り越えた先に到来する新しい社会」くらいにざっくり捉えておいてもらってかまいません。

では、なぜBIには、そのような大きな変革を促進する作用があるのでしょうか。それは、BIには、資本主義という「ゲーム」の流れを変える「ゲームチェンジャー」としての性格があるからです。そこには資本主義システムの基盤となる価値観や行動様式を根底から書き換える側面とともに、社会を次のステージへ押し上げる駆動力となる側面があります。つまり、BIには資本主義の行き詰まりを打破すると同時に、その先にあるポスト資本主義社会への道筋を切り開く力が秘められているのです。

ゲームチェンジャーとしてのベーシックインカムがもつ四つの力

では、ゲームチェンジャーとしてのBIが持つ、その具体的な力とは一体どんなものなのでしょうか?

それを整理したものが以下の四つです。

(1)貨幣権力を低下させる力
(2)国民皆労働制を廃絶する力
(3)贈与経済を再活性化させる力
(4)分配を強化する力

1. 貨幣権力を低下させる力

まずは貨幣権力を低下させる力から見ていきましょう。

すでに考察したように、貨幣権力とは、人や社会を支配する力のことです。そして、BIにはこの貨幣権力を低下させる作用があります。その仕組みについては、前の記事でかなり詳しく説明しましたので、ここでは繰り返しません。

また、これもすでに考察したことですが、現在の資本主義社会はこの貨幣権力の上に成り立っています。労働や消費をはじめとする経済上の制度はもちろん、法律や教育などの社会制度も、すべてこの貨幣権力を前提として組み立てられています。

しかし、BIによって貨幣権力が低下すれば、当然ながらその上に成り立つ資本主義経済システム自体が変化を迫られます。そして、資本主義経済システムの変革が進めば、それは必然的に今の資本主義社会を次のステージーーつまりポスト資本主義社会ーーへと押し上げることになります。

これが、貨幣権力の低下がポスト資本主義社会への移行を促すメカニズムです。

2. 国民皆労働制を廃絶する力

二番目に挙げられるのは、国民皆労働制を廃絶する力です。

現代の社会では、誰もが労働しなければなりません。そうしなければお金が得られず、生活していくことができないからです。これが今の社会を特徴付ける国民皆労働制度です。ある意味、形を変えて今も続く奴隷制度といってもよいでしょう(「国民皆労働制」という言葉は、X(旧Twitter)のアカウント「入間川梅ヶ枝」氏が最初に提唱したものです)。

BIの導入は、この国民皆労働制の廃絶をもたらします。働きたくない人は無理に働かなくてもよくなるのですから、これは当然の帰結です。

一方、貨幣権力と同様に、今の社会システムは国民皆労働制を前提に設計されています。法律や各種制度、教育、さらには個人の人生設計も、この国民皆労働制度を前提に組み立てられています。

しかし、その国民皆労働制度が廃絶されれば、どうなるでしょうか。当然ながら、今の社会システムの前提そのものが崩れることになります。そうなれば、法律や教育などの社会制度も必然的に変化を余儀なくされるでしょう。

これが、国民皆労働制の廃絶がポスト資本主義社会への転換を促す仕組みです。

3. 贈与経済を再活性化させる力

三番目は、贈与経済を再活性化させる力です。

これもすでに考察したようにBIには贈与経済圏の再生と強化をもたらす働きがあります。贈与経済圏とは、家族や地域社会など市場原理とは別の原理で動く領域です。この贈与経済圏の強化・拡張もポスト資本主義社会への移行を促す契機となります。

では、贈与経済圏の拡張がなぜポスト資本主義社会への移行を促すのでしょうか?

その仕組みは次の通りです。

現代社会は市場経済と贈与経済の二重構造からなっています。そして贈与経済は今日、市場経済の侵食圧力の前にじりじりと後退させられています。つまり、両者のバランスでいえば、市場経済が優勢となっているのが現状です。

こうした中で、贈与経済圏が拡張するということは、それまで優勢だった市場経済が逆に後退に追い込まれることを意味します。と同時にそれは、社会の二重構造における力関係にも変化をもたらします。そして、この力関係の変化は、その上に成り立つ社会とその制度全般に対しても、必然的に何らかの変化を迫ることになります。

これが、贈与経済圏の拡張がポスト資本主義社会への転換を促す仕組みです。

4. 分配を強化する力

四つ目は、分配を強化する力です。

分配を強化することもまた、ポスト資本主義社会への移行を促すことになります。

マクロ経済学の視点から見ると、経済は生産、分配、消費の三つの側面に分けられます。そのうち分配とは、生産で生まれた富を国民に分ける行為とその手段を指します。そして現在、それは主に労働を介した賃金を通したものに限定されています。

一方、BIは、労働とは別の新たな分配手段を提供するものです。つまり、その導入は、従来の労働賃金による分配ルートに加え、別の新たなルートを増やすことを意味します。したがってこれは当然、分配の強化をもたらすことになります。

では、分配の強化がなぜポスト資本主義社会への移行を促すのでしょうか。これは、前に触れた経済人類学者カール・ポランニーの理論をもとに考えるとわかりやすいかもしれません。ポランニーは、社会を統合する原理として「互酬」「再分配」「市場交換」の三つを挙げ、社会の安定にはこれら三つの原理のバランスが必要であり、逆にバランスが崩れれば社会は不安定になると主張しています。

社会統合原理の歴史的変遷

歴史的に見ると、これら三つの原理の力関係は次のように変遷してきました。

資本主義以前:互酬=分配

資本主義前期:互酬=分配 > 市場交換

現在:互酬 < 分配 < 市場交換

理想的な未来:互酬=分配=市場交換

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資本主義以前は、市場交換がほとんど存在せず、もっぱら互酬と分配だけで社会が成り立っていました。その後、資本主義が浸透しはじめると市場交換が加わりましたが、まだ大きな力は持たず、社会は相変わらずほぼ互酬と分配を中心に回っていました。

ところが、現代では市場経済が劇的に拡大し、互酬と分配を圧倒するまでに膨れ上がっています。さらに、市場経済の拡大に押されて贈与経済、すなわち互酬が縮小した結果、互酬は分配以上に弱体化しています。

これは、三つの原理のバランスが崩れた状態であり、現代社会を特徴づける閉塞状況も、突き詰めればこの不均衡が原因であるとみなすことができます。

では、これら三つのバランスを取り戻すには、どうすればよいのでしょうか。

ここでも鍵となるのが、BIです。

BIが導入されれば、まず分配が強化されます。BIが分配機能を強化するものである以上、これは当然の帰結です。また、BIには市場経済の侵食を抑え、贈与経済、すなわち「互酬」を再生・強化する働きもあります。これもすでに説明した通りです。その結果、衰退していた互酬も復活することになります。

こうして、分配が強化されるとともに市場交換が抑えられ、同時に互酬が強まれば、三つの原理は再びバランスを取り戻すことになると考えられます。

この三つの原理が均衡した社会をポスト資本主義社会と呼ぶなら、BIは、このポスト資本主義社会への移行を促す上で決定的に重要な鍵を握っていることになります。なぜなら、上述のようにBIには、三つの原理を均衡に導き、分配を強化する働きがあるからです。

これが、BIがもつ「分配を強化する力」が、ポスト資本主義社会への転換を促す仕組みです。

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