
AI進化が引き起こす大変革に、私たちはどう向き合うべきか?
私たちは今、資本主義の歴史において最大級の転換点に立っています。その主な要因は、目覚ましい速さで進化を続けるAIとロボット技術です。
以前、考察したように、AIの進化が招く最も深刻な問題は、雇用の喪失とそれに伴う消費市場の縮小です。その結果、資本主義経済システムそのものが機能不全に陥る危険性も浮かび上がりました。
では、この問題を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。
雇用の喪失については、すでに考察した通り、回避は困難です。また、それは「労働からの解放」でもある以上、無理に食い止める必要もありません。しかし、消費市場の縮小に関していえば、これは十分回避可能です。
そのための鍵となるのも、ベーシック・インカム(BI)です。
BIが導入されれば、AIやロボットによって職を失った人々も、最低限の収入を確保できます。収入が保証されれば、消費市場が縮小し、それに伴って生産能力も損なわれるという悪循環を断ち切ることができます。結果として、資本主義の停止という最悪の事態も避けられるでしょう。
これが、AIの衝撃がもたらす「消費市場の縮小」という問題を、BIが解決する仕組みです。
労働と所得の分離がもたらす「生産力の爆発」
さらにもう一つ、ここには見逃せない重要なポイントがあります。それは、労働と所得が切り離されることです。従来、所得は原則として労働を通してのみ得られるものであり、両者は密接に結びついていました。しかし、労働と関係なく所得を保障するBIが始まれば、この結びつきは断ち切られます。これが「労働と所得の分離」です。
この分離は、何をもたらすのでしょうか? じつはその影響にはきわめて大きなものがあります。なぜなら、この分離は、これまで生産拡大を阻んできた購買力不足という制約を取り払うことになるからです。
資本主義経済下では、購買力の不足——専門用語で言えば「有効需要の不足」——が生産拡大の制約条件となっています。潜在的な生産力がどれほどあっても、それに見合う需要がなければ生産は拡大できません。買ってくれる人がいなければ、作っても無駄になり、損失が膨らむだけだからです。
しかし、ベーシック・インカムによって購買力が恒常的に確保されれば、この制約条件は消滅します。購買力があるということは、裏を返せば需要が存在する、あるいは創出できるということです。需要があれば、それに応える形で供給が促されます。需要があるところに利益が生まれ、利益があるところに供給が生まれるのは、資本主義の基本原理だからです。
しかも、その生産労働をAIやロボットが担うようになれば、生み出される供給力は雇用の増減に関係なく、技術水準に比例して高まっていきます。また供給力が高まれば、それに応じてBIの支給額も引き上げられます。そして、BIが増額されれば購買力がさらに拡大し、それが供給力の拡大を促し、再びBIの引き上げにつながる——という好循環(正のフィードバック・ループ)が形成されることになります。

加えて、このループは資源の枯渇などの物理的制約を無視して考えれば、理論上、無限に続きます。つまり、BIによって労働と所得が分離され、購買力が恒常的に確保されれば、科学技術の進歩がそのまま直接、供給力の拡大として反映される社会が実現するのです。
そうなれば、衣食住をはじめとする生活必需品のほとんどは、無料か、極めて低価格で提供されるようになるでしょう。資源に制約のあるものや贅沢品については、相応の値段がつくかもしれませんが、現在に比べればはるかに手が届きやすくなるはずです。少なくとも物質的な欲望を満たす上での障壁は、限りなく低くなるでしょう。もちろん貧困が一掃されることは言うまでもありません。
ここにあるのは、かつて人類の夢としてSF小説などに描かれた、豊かで何不自由ない未来社会の姿そのものです。しかし、それはもはや夢物語ではなく、そう遠くない未来に到来することが予想されている現実的なシナリオなのです。
AIがもたらす貨幣欲求の低下
AIが社会にもたらす衝撃には、もう一つ重要な側面があります。それは、貨幣への欲求が低下するということです。
AIやロボットの進歩は、社会全体の供給力を飛躍的に増大させます。その結果、おそらく遠くない将来には、衣食住をはじめとする生活必需品の多くが、ほとんど無料に近い形で提供されるようになるでしょう。
そうなれば、私たちが生きていく上で貨幣を使う必要性は急速に薄れていきます。必要性が薄れることは、必然的に貨幣への欲求低下をもたらします。
さらに、貨幣への欲求低下は、貨幣が持つ権力(貨幣権力)の弱体化を引き起こします。以前考察したように、貨幣権力を構成する要素の一つに「何でも買える力」があります。そして、貨幣への欲求を生み出しているのも、まさにこの「何でも買える力」です。つまり、貨幣権力はこの「何でも買える力」という土台の上に成り立っているのです。
しかし、その土台である「何でも買える力」が低下すれば、その上に築かれた貨幣権力もまた、低下せざるを得ません。これが、貨幣への欲求低下が貨幣権力の弱体化を引き起こす理由です。
では、貨幣権力の弱体化は、私たちの社会にどのような影響を及ぼすのでしょうか。この点については、別の記事でまた改めて考察したいと思います。
