贈与経済圏の再生強化は一朝一夕にいかない

ここまで贈与経済圏を再生・強化するための方法について考察してきました。しかし、ここで強調しておきたいのは、この再生・強化は一朝一夕に実現するものではないということです。

なぜでしょうか?

それは、贈与経済圏がすでに深刻なまでに破壊されてしまっているからです。

贈与経済圏、すなわち社会が市場経済の暴走によって今や瀕死の状態にあることは前にも述べた通りです。したがって、その現状については、これ以上説明する必要はないでしょう。ただし、なぜそうなったのかについては、もう少し補足すべきかもしれません。

そもそも資本主義の発展は、歴史的にみれば資本による「世界」の囲い込みのプロセスといえます。

そのプロセスにおいて、最初に囲い込まれたのは牧草地などの土地でした。そして、その過程で土地を失った農民たちは都市へ流入し、労働者となりました。こうして土地に続いて人間も囲い込まれることになります。

その後、労働者を効率よく働かせるために法律などの社会制度も資本主義に適した形に改変・整備されました。その結果、社会制度もまた資本によって囲い込まれることになったのです。

ところで、こうした「土地(自然環境を含む)」「人」「制度」は、資本主義が浸透する以前の社会、すなわち贈与経済圏にとってもその基盤を構成する上で欠かせない重要な要素でした。ということは、こうもいえるでしょう。そこで行われていたのは資本主義的市場経済と贈与経済による、「土地」「人」「制度」をめぐる陣取り合戦であった、と。そして、それらが市場経済によって「囲い込まれた」ということは、この陣取り合戦において、最終的に市場経済が勝利したこと、そして贈与経済圏が敗北したことを意味します。

つまり、現在の贈与経済圏が深刻なまでに破壊されてしまっているのは、まさにこの陣取り合戦における市場経済の圧勝の結果なのです。そして、このような限界ぎりぎりまで追い詰められた瀬戸際の状況において、体勢を立て直し、反攻に転じることがいかに困難であるかはいうまでもありません。

これが、贈与経済圏の再生が一朝一夕にはいかない根本的な理由です。前節では市場経済の侵食を「癌細胞」にたとえましたが、それに沿っていえば、病状はすでに末期的な状態にあり、自然治癒力だけに頼って回復できる段階にはない、ということです。

ならば、どうすればよいのでしょうか?

このシリーズではこの問いに対し、肥大化した市場経済を再び社会の中に埋め戻すことを軸にいくつかの対策を提案してきました。

しかし、なかには「それでは生温い!解決策は共産主義革命しかない!」と言って詰め寄ってくる過激な人もいます。市場経済の暴走を止めるには、資本主義そのものを廃止し、代わりに計画経済システムを導入するしかないという理屈です。そのように考える人たちからすれば、ベーシックインカムは資本主義の延命策にすぎず、むしろ革命を阻む反動的な政策と映るのでしょう。

しかし旧ソ連の崩壊が示すように共産主義革命が本当に有効な解決手段なのかといえば、大きな疑問が残ります。しかも暴力革命は社会に大きな混乱をもたらすばかりでなく、贈与経済圏自体を根底から破壊してしまうおそれもあります。実際、歴史を振り返れば、革命によってかえって社会が荒廃し、回復不能なほどのダメージを受けた例は少なくありません。そうなってしまっては本末転倒です。

したがって、贈与経済圏を蘇らせるためには、やはりここで示したように地道なアプローチが現実的な選択肢なのではないでしょうか。癌治療のたとえに戻れば、なにはともあれ薬でもって治療し、一定水準までの回復を図るということです。もちろん、その後はできるだけ自然治癒力を活用すべきなのはいうまでもありませんが、そこへ至るまではきちんと薬を服用し続ける必要があるということです。そして、そのための効果的な薬が、BIという「お金配り」なのです。

以前、検討した防衛策や反攻策において、いずれの手段も最終的にお金配りが最適解という結論になったのは偶然ではありません。それは、お金を配ることが贈与経済圏の衰退、損傷という社会的な病気を治療する上でもっとも効果的な処方箋だからです。つまり、それらの結論はどれもこの確かな処方箋から導かれた必然的な帰結だったのです。

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