
反攻戦略としての贈与経済圏強化――その第一歩もBIから始まる
前回までは、市場経済の侵食に対して贈与経済を守る「防衛戦略」の重要性を論じてきました。今回は、そこからさらに一歩踏み込んで反攻戦略について検討してみたいと思います。
反攻とは、守勢から攻勢へ転じることです。現在、市場経済は私たちの生活や人間関係に深く入り込み、かつて社会の中心をなしていた贈与経済圏を徐々に侵食しています。この流れを逆転させ、強化された贈与経済圏でもって市場経済を侵食し返すこと――これが反攻戦略の目的です。
では、そのためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
■ 贈与経済圏は社会の「自然な姿」
ここで、まず押さえておきたいのは、贈与経済圏こそが社会の本質的な姿であることです。すなわち、市場経済が浸透する以前の社会とは贈与経済圏に他なりません。したがって、社会の自然状態と贈与経済圏はほぼイコールとみなすことができます。
そして、そうであるならば、贈与経済圏には、本来の姿へと戻ろうとする自己回復力ーー自然治癒力ーーが備わっていると考えられます。ということは、市場経済の侵入を防ぐ防護壁さえしっかりしていれば、贈与経済圏が持つ自然治癒力が働き、その再生と強化は放っておいても自然に進むといえるでしょう。
つまり、市場経済からの浸食に対する贈与経済圏側の防衛が十分に機能していれば、それ以上、特段の努力をしなくても贈与経済圏の再生と強化は自ずと実現されるということです。したがって、前段で見た「防衛戦略」さえしっかりできていれば「反攻戦略」ーーすなわち贈与経済圏を「今以上に強化」するための施策ーーは本来不要であるといえます。
とはいえ、その自然な再生力をよりパワーアップさせ、加速させることはもちろん不可能ではありません。それは人間の身体が、自然な生活を心がければ、放っておいても健康になる一方で、食事や運動を意識的に管理することで、より確実に健康になれるのと同じ理屈です。したがって贈与経済圏もまた、適切な働きかけさえあれば、より安定した、またより力強いものにすることは不可能ではないといえるでしょう。
ここでは、そのための具体的な方策について考えてみます。
■ 贈与経済圏強化の鍵は「贈与原理」の強化
ということで、あらためて問い直してみましょう。贈与経済圏を強化し、活性化させるにはどうすればよいのでしょうか?
結論から言えば、答えは「贈与原理」の強化です。贈与経済圏は、文字通り「贈与原理」によって動く領域です。その原理が強まれば、贈与経済圏全体が自然に活性化していくのは自明の理といえるでしょう。
では、贈与原理とは何でしょうか。
端的にいえば、「与える原理」なのですが、正直なところ、これは一言で説明するのが難しい概念です。正確に捉えようとすると哲学的な領域にまで入り込んでしまいますので、ここではシンプルに「助け合いの原理」、すなわち「助け合いの精神」ということにして考察を進めていきたいと思います。
さて、ここまでの考察で、贈与経済圏を再生・強化するには、その根底をなす原理である助け合い精神を強化させればよい、ということがわかりました。
ならば、助け合いの精神を強化するにはどうすればよいのでしょうか。
方法はいくつか考えられます。たとえば政府が主導して、助け合いの大切さを訴えるキャンペーンを展開するのもひとつの方法です。しかし、自分で提案しておいて言うのもなんですが、そのような呼びかけはおそらく形だけに終わる可能性が高いでしょう。
なぜでしょうか。
助け合いは、助ける側と助けられる側の双方に、一定の「ゆとり」があって初めて成り立つ関係だからです。
「助け合い」と「一方的な援助」は異なります。一方的な援助は「施し」であり、一方通行の贈与です。しかし、助け合いは相互的な贈与であり、将来、受けた恩を(必ずしも同じ相手でなくてもよい)返すことが前提となります。そのため、与える側には物質的・精神的な余裕が必要であり、同時に受け取る側にも将来それを返せる見通しが必要になります。
さらにいえば、返す見込みがない一方的な与え合いは、単なる「施し」にすぎません。施し(これも贈与の一形態ではありますが)は、共同体の結束を強めるどころか、むしろ分断を深める危険性があります。与える側と与えられる側の間に上下関係や隔たりを生み、相互不信を招く可能性があるからです。
要するに、助け合いが成立するには、双方に一定のゆとりが必要なのです。それがなければ、助け合いは生まれませんし、原理的にも成立しえません。
ところが現代社会では、多くの人がそのゆとりを失っています。生活に追われ、疲弊し、他者を助ける余裕はおろか、自分自身を支えるので精一杯なのが現状です。こうした状況で、「助け合いましょう」と呼びかけても、掛け声倒れになるのは火を見るより明らかでしょう。
■ ゆとりを取り戻すカギは「BI」
では、どうすればよいのでしょうか。
答えは明快です。
人々に「ゆとり」を取り戻させること――まずは、ここから始める必要があります。
そして、そのために有効な手段となるのが、現金給付です。つまり、ベーシックインカム(BI)の導入です。
BIによって最低限の生活が保障されれば、人々は生活の不安から解放されます。そうなれば、物質的、精神的両面でのゆとりが生まれます。そして物心両面での余裕が生まれれば、自然と助け合いの精神が蘇ってきます。それは、人為的なキャンペーンとして政府から押しつけられた義務感からではなく、ゆとりを取り戻した人間の本性から生まれる自然な発露というものです。
さらに、この助け合いの精神が広がれば、それを根本原理にもつ贈与経済圏は必然的に拡大し、いっそう強固なものとなるでしょう。そうなれば、市場経済による外部からの浸食を押しとどめるばかりか、反転攻勢という形で市場経済圏を逆に飲み込むことさえ可能になるかもしれません。
これが、BIが贈与経済圏を強化することによって市場経済の浸食を押し返す「反攻戦略」のメカニズムです。
