
町を救った偽の100ドル札
ある小さな町の外れに、一軒の古びたホテルがあった。
季節は秋。観光客もまばらな平日の午後、ひとりの旅人がふらりとフロントに現れた。
「一週間後にまた戻ってくる。
それまでこの100ドル札を預かっておいてくれないか?」
そう言って、旅人はカウンターの上に一枚の100ドル札を置いて去っていった。
フロント係のA氏は、悪い人ではないが、性格的にややいい加減なところがあった。彼はその紙幣をひょいと摘まむと、こうつぶやいた。
「そういえば…Bに借りた100ドル、今日までに返す約束だったな。とりあえずこの100ドル札を借りて返しておくか‥。二日後には給料が入るから、それを戻しておけばいい。100ドル札は100ドル札。どれも同じだ。別に問題はないだろう」
A氏は100ドル札をポケットに入れ、急いでBの家へ向かった。
■ 100ドル札の旅が始まる
Bはちょうど困っていた。
「助かったよ、A。これでCへの借金が返せる」
Bは受け取ったばかりの100ドルを持って、今度はCの家へ走る。
Cもまた、同じ額の借金を抱えていた。
「よかった…これでDに返せる」
彼もまたその100ドル札を手に、町はずれのD宅へ向かう。
この町の住民たちは、どういうわけかみんな同じ額の借金を抱えていた。
そしてその100ドル札は、さらにEからFへ、FからGへ──
まるでバトンのように、町中をぐるりと回っていった。
最後のZまで紙幣が届いたとき、Zは天井を見上げて言った。
「ああ、そうだ。私もAに100ドル借りてたんだったな」
そしてZが100ドル札を返したことで、
紙幣はちょうど出発点のA氏の手元に戻ってきた。それは旅人から預かったのと全く同じ紙幣であった。
■ 一枚の紙切れで、町から借金が消えた
気がつけば、この町の住人は全員、借金がきれいさっぱり消えていた。
負債がなくなったことで家の明かりは少しだけ明るくなり、誰もがほっと息をついた。
■ そして旅人が戻ってくる
約束の日。
旅人がホテルに戻ってきた。
「預けた100ドル、あるかい?」
A氏は堂々と答えた。
「はい。こちらにございます」
旅人はにっこり笑って言った。
「よかった。誰も触っていないようだね」
すると次の瞬間──
旅人はその100ドル札を両手でつまみ、
ビリッ、ビリビリッ!
と目の前で破り捨てた。
「実はね、それ、偽札なんだよ。」
A氏は呆然とした。
同時にA氏はさらに驚くべきことに気づいた。
それは、今目の前で破られた偽札が町の借金をすべて清算し、町の人全員の負債を解消していた、という事実である。
この偽札をめぐる奇妙な物語ーー。あなたはこの話から何を読み取りますか?
