
BIは反政府運動を封じる道具になるのか?──「国民奴隷化」論のもうひとつの誤解
ベーシックインカム(BI)を「国民奴隷化制度だ」と批判する議論の中には、次のような懸念を語る人が少なくありません。
「政府にとって都合の悪い人物は、BIの支給を止められてしまうのではないか」
つまり、反政府的な発言や活動をした人が、「支給停止」という罰則によって沈黙を強いられる──。そんな未来を恐れているわけです。
一見、「あり得そう」と思う人もいるかもしれません。しかしこれは、前回扱った論点と同じく、因果関係を取り違えた誤解であり、現実の制度運用や民主主義の構造を踏まえると説得力を持ちません。
■ そもそも「BIだから起きる問題」ではない
まず大前提として確認しておきたいのは、民主主義が正常に機能している社会では、政治的意見を理由に給付停止を行うことは制度的にも社会的にもほぼ不可能だということです。
なぜなら、生活手段を奪うことは人権侵害にあたりますし、人権侵害は民主主義国家である以上、けっして許されない行為だからです。もしそのような人権侵害が起きる場合は、BIの有無以前に、その国はすでに民主主義が崩壊していることを意味しています。
つまり「BIが危険」なのではなく、「その社会が危険」なのです。
■ 「BIが止められたら収入がゼロになる」という誤解
この批判にはもうひとつ、誤った前提があります。
BIが止められる=収入がゼロになる
という前提です。しかし、これはBIを「唯一の収入源」だと勘違いしていることから生じる誤解です。
現実には、BIが導入されても、会社はなくなりません。したがって働く場所がなくなるわけではありません。
つまり、BIが仮に止められたとしても、就職して収入を得ることは可能ですし、仮に仕事が見つからなければ自分で事業を始めることもできます。
むしろBIが導入されれば、消費市場が安定的に拡大するため、起業のチャンスは今より広がるでしょう。したがって才覚のある人なら、逆に大儲けできる可能性の方が高くなります。
要するに
BIの支給を止められたところで、現状の「働かないと収入がない世界」に戻るだけであり、別に今より生活が苦しくなるわけではない
ということです。
■ 実は、今の方が政府に声を上げにくい
さらにいえば、BIのない現在の方が、政府に対して声を上げにくい構造があります。
多くの人は、生活のために仕事に追われており、政治に参加する余裕がありません。生活が不安定であれば、そもそも反政府運動どころではないからです。
加えて、権力者がその気になれば、
- 就職を妨害する
- 起業を困難にする
- 経済的圧力をかける
といった形で、事実上「生活の糧」を奪うことはいまでも十分可能です。
つまり、
民主主義という観点から見れば、収入がほぼ労働にのみ紐づけられている今の方が、よほど脆弱であり、反政府的な活動もやりにくいのです。
■ 本当に国民を黙らせたいなら「BIを導入しない」ことが最適解
もし本気で「反政府勢力を弱体化したい」と権力者が考えているのなら、BIを導入してから停止するなどというまどろっこしいことをする理由はありません。
最初からBI導入を拒否する方が、よほど効率的で確実です。
■ 「BI支給停止で口を封じられる」は、現実とかけ離れた思い込み
以上を踏まえれば、
「政府に都合の悪い人物が、BI支給停止で口を封じられる」という主張は、
BIと社会の仕組みを理解しないことからくる誤解に過ぎない、ということがわかるのではないでしょうか。
次回は、この「国民奴隷化」論の別の側面──「監視社会への懸念」という批判──について掘り下げていきます。
