仕事と労働はまったく違う――AI時代を考える前に整理しておきたい基本概念

前回の記事では、AIが人間の労働をどのように奪っていくのか、その未来像について考察しました。今回はその考察をより深めるために、「仕事」と「労働」という言葉の違いを整理したいと思います。

というのも、この二つの言葉をそのまま曖昧に使ってしまうと、AI時代の未来像について誤解が生じやすくなるからです。そこで、ここでは両者を次のように定義します。

労働とは「お金のための活動」

ここでいう 労働 とは、賃金を得るための活動を指します。企業に雇われて働くことはもちろん、自営業として商品やサービスを市場で売り、対価を得る場合も含まれます。つまり、
市場経済の中でお金と交換される活動=労働という捉え方です。

仕事とは「生きることすべて」

一方で「仕事」は、労働以外のすべての活動を指します。そこには、家事、育児、介護、地域活動、趣味への没頭などに加え、身だしなみを整える、食事をする、排泄する、眠る、悩む、散歩する、呼吸するといった行為も含みます。つまり、生きることそのものが仕事である、という捉え方です。

さて、このように考えると、はっきりしてくることがあります。

それは、AIが代替できるのは「労働」だけであり、「仕事」は代替できないことです。

これは当然の話です。

AIやロボットがどれだけ発達したとしても、人間の代わりにご飯を食べたり、悩んだり、眠ったりすることはできないからです。

さらにここで重要なのは、それらの「仕事」の裏には常になんらかの「欲望」が伴うことです。そして、いうまでもないことですが、人間の欲望には限りがありません。したがって、欲望を満たすための試みでもある「仕事」はいつまでもなくならないし、むしろ無限に生まれ続けることになります。

ここからわかるのは、AIがいくら発展しても、仕事そのものがなくなることはないということです。

「仕事」がそのまま「労働」になるとは限らない

ただし、ここにはもうひとつ重要なポイントがあります。それは、そうした仕事がそのまま労働になるとは限らないことです。

確かに、仕事への社会的需要が高まれば、それを対象にした新たな労働市場が生まれる可能性はあります。しかし、こうした領域に労働市場が成立したとしても、それはおそらく長続きしないはずです。

なぜなら、AI・ロボットに職を奪われた多くの人が、そこに一斉に流れ込むからです。結果として、その賃金は市場原理によって限界まで下がっていくでしょう。そうなれば、そこでわずかに生き残る人はいても、大多数の人はその労働だけで生活を成り立たせることは難しくなります。

さらにいえば、新たに生まれるその労働も、遅かれ早かれAI・ロボットによって代替されていくはずです。

これは前回の記事『AIの衝撃――資本主義の行き詰まりを加速するもうひとつの理由』ですでに考察した必然的な帰結です。

「安定した労働」は消えていく

以上のことを踏まえると、次のような結論が導かれます。すなわち、これまでのように、「労働だけで生活のすべてを賄えて、しかも10年以上は転職を考えなくて済むような安定した労働は、今後、ほぼ絶滅するであろう」ということです。

AI社会では、お金を稼ぐための「労働」がどんどん消えていく一方で、生きるための「仕事」は無限に拡張し続けるーーこの非対称性を押さえておくことは、これからの社会を考えるうえで欠かせない前提になるでしょう。

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