市場経済は贈与経済なしに成り立たない

前回の記事では、資本主義社会が、贈与経済の上に市場経済が乗る二重構造になっていることを示しました。そして、そうなったのはある意味、歴史的な必然であったことも指摘しました。

ところで、このことはベーシックインカムの必要性を論じる上できわめて重要な事実を示しています。それは市場経済は、贈与経済がなければ成り立たないということです。

なぜそう言えるのでしょうか。

これは資本主義経済における生産の三要素という観点から考えるとわかりやすいかもしれません。生産の三要素というのは、土地、労働、資本の三つです。これらは資本主義的生産を行う上でなくてはならない基本的な要素とされています。そして、重要なのはこれら三つの要素はいずれも市場経済単独では生み出せないということです。

もう少し詳しく見ていきましょう。

土地

まず土地です。
土地は、地球誕生の時からそこに存在していたものであり、誰かがつくり出したものではありません。自然環境や天然資源も同様です。市場経済はたんにそれらを利用して生産活動を行ったり、取引の対象にしたりしているにすぎません。つまり、土地、そして自然環境や天然資源は、地球という巨大な贈与経済圏に属するものであり、市場経済に属するものではないのです。

労働

次は労働です。
労働力とはつまり「人間」のことです。人間が生まれ、育ち、社会に参加できるようになるには、家族や地域社会の支えが不可欠です。

子どもが食べ物を与えられ、教育を受け、社会のルールを学ぶ――。
こうした営みのほとんどは、市場ではなく贈与の領域で行われています。

したがって労働力も、市場経済が作り出したものではなく、贈与経済の産物といえるでしょう。

資本

資本もまたその土台部分は市場経済に属するものではありません。

一般に資本というのは、生産に必要な機械設備、もしくは原料や労働力、機械設備を購入する貨幣を指しますが、これらもまた市場内部だけで生み出すことは不可能です。なぜそういえるのでしょうか?

まず機械設備を見てみましょう。

たしかに機械自体は市場で作られた商品です。けれど、その素材――鉄、石油由来製品、木材など――はすべて自然からの贈り物です。つまり資本としての機械もまた、その根源をたどれば贈与経済圏に行き着くのです。したがってそれは少なくとも市場経済が単独で生み出したものとはいえないでしょう。

では貨幣(お金)はどうでしょうか。

「お金は天下の回りもの」と言われるように、お金は社会全体を循環させる公共的なインフラの役割を持っています。また主流派経済学では、お金を市場に対して中立的な存在とみなしています。このふたつの事実を指摘するだけでも、お金が市場経済とは一線を画した特殊な存在であることがわかるでしょう。

もちろん、お金がどこから生まれたのかについては諸説あります。けれど、ひとつ確かなのは、人間がいなければお金も生まれなかったということです。そう考えれば、貨幣(お金)もまた市場経済にのみ属するものとはいえないことが理解できるはずです。

ちなみに経済人類学者のカール・ポランニーは、土地・労働・貨幣を「擬制商品」と呼びました。本来は商品ではないのに、あたかも商品であるかのように扱われるものという意味です。そして、彼はこれらを無理に商品とみなし、市場の中で取引しようとしたことが、資本主義の矛盾を生み出したと指摘しています。すなわち、彼もまた「土地・労働・貨幣(資本)」という生産要素は、市場経済以外の産物として捉えているのです。

贈与経済は市場経済の「母体」

繰り返しになりますが、これらの生産要素は市場経済の根幹をなすものです。そして、それらが贈与経済圏なしに生み出せないという事実は、市場経済が贈与経済なしには動かないことを意味しています。つまり、市場経済は贈与経済という母体の上ではじめて機能する仕組みだということです。

これに関連して、もうひとつ、指摘しておきたいことがあります。「市場経済がうまく機能しないのは、非市場的なものが邪魔をしているからだ」という声が一部の人からよく聞かれますが、これは大きな誤解です。

なぜなら、今見たように市場経済はそもそも贈与経済がなければ存在しえないからです。市場経済以外のものが邪魔をするからといって、非市場的なものーーつまり贈与経済圏を完全に消滅させようとしたなら、それは同時に市場経済そのものの消滅を招くことになります。これは共倒れというものです。

さて、以上のことから一体何が導き出せるのでしょうか?

それは次のふたつです。

1、市場経済は、贈与経済という見えない土台の上に立つ建物のようなものです。その土台を削れば、どんなに立派な市場もやがて崩れます。

2、ベーシックインカムをめぐる議論も、この視点――「市場経済は贈与経済なしには成り立たない」という事実――を出発点にしなければなりません。

市場経済の持続可能性を担保するために、またベーシックインカムの可能性を探るためにも、私たちは贈与経済の価値をここでもう一度深く考え直す必要があるといえるでしょう。

広告


もう書けないとは言わせない!
三行から組み立てる超ロジカル文章術