
ベーシックインカムの歴史①──三人のトマスが描いた「すべての人に収入を」
ベーシックインカム(以下、BI)という考え方は、決して新しいものではありません。
その発想の起源は、数百年前の思想家たちにまでさかのぼります。
BIの歴史をたどるうえで、しばしば「三人のトマス」が先駆者として紹介されます。
16世紀の作家トマス・モア、18世紀の思想家トマス・ペイン、そして同じく18世紀の思想家トマス・スペンスです。
彼らはいずれも、貧困や不平等のない社会を構想する中で、「すべての人が生きるための最低限の所得を持つべきだ」という思想にたどり着きました。
トマス・モア──『ユートピア』に描かれた理想社会
最初のトマスは、16世紀のイギリスの作家・政治家、トマス・モアです。
彼が1516年に発表した『ユートピア』は、のちに社会思想史上の金字塔とされる名著となりました。
『ユートピア』においてモアは、私有財産のない社会を描き、人々が協力して働き、必要なものを分け合う姿を理想として示しました。
この社会では、貧困も犯罪もほとんど存在しません。
人々が生きるために必要なものはすべて共同で生産され、共同で消費されるからです。
モアが今日のような「現金給付」としてのベーシックインカムを構想していたわけではありませんが、
「誰もが生きるために必要なものを保障されるべきだ」という思想の原点は、ここに見ることができます。
トマス・ペイン──「市民の権利」としての給付
二人目のトマスは、アメリカ独立戦争やフランス革命に影響を与えた思想家、トマス・ペインです。
彼は1797年に発表した『アグラリアン・ジャスティス(農民の正義)』の中で、
「土地の私有によって利益を得る者は、その一部を社会に還元すべきだ」と主張しました。
ペインによれば、地球の土地は本来すべての人の共有財産であり、
それを一部の人が独占して利益を得ることは正義に反する。そのため、土地所有者から徴収した「地代」によって基金をつくり、
そこからすべての人に一定額を給付するべきだと説いたのです。
この「全員への定期的な給付」という考え方は、まさに現代のベーシックインカムの直接的な祖先といえるでしょう。
トマス・スペンス──土地の共有と配当
そして三人目のトマス、トマス・スペンスは、ペインの影響を受けつつもさらに急進的でした。
彼は土地の私有そのものを廃止し、土地を共同体のものとするべきだと考えました。
そのうえで、土地から得られる収入をすべての住民に「配当」として分配することを提案したのです。
スペンスの発想は、土地から生まれる利益を「みんなのもの」として平等に分けるという点で、
後の「国民配当」や「社会配当」の考え方と近いものでした。
こうして、三人のトマスによってBIの原型ともいえる思想が生まれました。
それは「慈善」でも「救済」でもなく、人が生まれながらに持つ権利としての所得を構想するものでした。
しかし、この段階ではまだ理念の域を出ていません。
彼らの思想はあくまで理想社会のビジョンとして語られ、
実際に政策として実現するまでには、まだ長い時間が必要だったのです。
次回、ベーシックインカムの歴史②に続きます
