
拝金主義の衰退をもたらすベーシックインカム
ベーシックインカムがもたらす第二の変化は、価値観の変化と多様化である。具体的には次の通りだ。
1.お金に対する価値観が変わる
生活に必要なお金が万人に保障されるようになると、お金に対する価値観も大きく変わるだろう。なかでも重要なのは、拝金主義の衰退だ。これは、お金持ちイコール勝利者という図式が崩壊、もしくは希薄化することを意味する。 その結果、どうなるか? 金持ちというだけでは何の自慢にもならないし、周りの人もとくに羨ましいとも偉いとも思わなくなるだろう。いや、それどころか、金持ちは逆に侮蔑の対象になるかもしれない。なぜそれほどお金を欲しがるのか、一般人には理解のおよばない、ちょっと変わった嗜好を持つ人として敬遠される可能性があるからだ。 これについては、高名な経済学者、ジョン・メイナード・ケインズが興味深い論考を書いているので、抜粋して紹介しよう。
「富の蓄積が最早あまり社会的重要性を持たなくなると、道徳律にも大きな変化が生じる。二百年にもわたり私たちを悩ませてきた多くのインチキ道徳原理、最も忌まわしい人間の性質を最も高い美徳の地位に担ぎ上げるのに使ったインチキ道徳の多くを捨て去れるようになるのだ。金銭動機をその真の価値という点から敢えて評価できるようになる。所有物としての金銭に対する愛—人生の享受と現実の手段としての金銭を愛するのとは別だ—の化けの皮は剥がれ、いささか嫌悪すべき病的状態であり、犯罪もどき、精神病もどきの傾向として、身震いしつつ精神病の専門家に引き渡すようなものだと認識されることになる」(ケインズ 孫たちの経済的可能性 山形浩生訳)
こうしたお金に対する価値観の変化は、お金に縛られない社会を招き寄せる。預金の多寡や年収で人格的な価値までも判断される社会から、そうでない社会への転換だ。そこは、お金のある無しは人間としての価値とは無関係であり、たとえ預金残高がゼロであっても別段、恥ずべきこととはみなされない社会である。
この記事は私の著書『ゲームチェンジャーとしてのベーシックインカム』からの抜粋です。↓