人間を含む動物は本能的に怠けることを嫌うようにできている
こちらにベーシックインカムとも関係しそうな面白い対談記事がありましたのでご紹介します。人間をふくむほとんどの動物には、「労働を好む」本能があるという話です。
対談では、そのことから「年を取って、引退して、年金もらって、働かずに手に入れたお金は、たぶんあまり価値がない」と(ベーシックインカムのように)働かずにお金を手に入れることに対して否定的な見方をしていますが、私にはそれはむしろ逆のように思えます。
そのことを端的に示しているのが、対談に出てくる次の言葉です。
「飼い犬みたいにご主人からもらうことに慣れて2000年経っている犬ですら、レバーを押すんですから」。
これは犬でさえご主人から、なにもせずそのまま与えられるエサよりも、レバーを押すという「労働」の報酬として得られるエサの方を好むという実験結果のことをさしています。
この実験結果からわかるのは、ほとんどの動物が本能的に怠けることを忌避し、自ら報酬を得ること、すなわち「労働」を好むということです。
したがって対談者の見方とは逆に、むしろこの実験結果はベーシックインカムが支給される社会になったとしても、労働意欲が低下しないことの証明になっているはずです。
またこのことからチャレンジリスクを低減させるベーシックインカムは、怠惰を促すというより、さらなる創造と生産を促す仕組みであるとみなすことも可能なはずです。
さらにこの結果はベーシックインカムに対する反対論の多くがじつのところ脳の構造からくる「怠け癖」に対する本能的な拒絶反応にすぎないことも示唆しています。すなわち、ベーシックインカム反対論者の多くは、「コントラフリーローディング」という脳に内在する機能からくる無意識の拒絶反応がはじめにあり、それに対してもっともらしい理屈を後付けでつけただけにすぎず、本質的にはただの感情論でしかないということです。
それにしても、脳の話は興味深いですね。前半部分はいわゆる「心脳問題」のことのようですが、これを考えはじめると本当に訳が分からなくなってしまいます。そもそも人間に自由意志などあるのでしょうか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9641
脳の中にはダークエネルギーがある
池谷裕二(脳科学者)×出口治明(ライフネット生命会長)[第4回]池谷:コントラフリーローディングってご存じですか?
出口:いいえ。
池谷:「なぜ働くか」という話と関係あるので、お話します。コントラは「逆」、フリーは「ただ」、ローディングは「負荷」です。つまり、労せず手に入れたものより、脳は対価を払って入手したものを好むという話です。僕らは研究室でネズミを飼っていて、ケージの中にエサを置いている。自由にいつでも食べていい状態になっているのですが、ネズミは賢いので、レバーを押してエサが出てくる道具を置いたら、お腹がすいたときレバーを押して勝手に食べるんです。
出口:ほう。
池谷:ケージの中に、レバーのついた道具と、お皿のエサを両方置いておくと、ネズミはどちらを食べるでしょう?
出口:レバーのほうでは?
池谷:そうなんです。
出口:面白いからじゃないですか。
池谷:そうだと思います。つまり、苦労せずに手に入れたエサには価値がないんです。これ、ネズミだけじゃなくて、ほぼすべての種がそうです。魚も鳥も猿も犬もみんなそう。魚なんて、目の前にあるプランクトンを食べればいいのに、海藻の中にあるプランクトンをわざわざつついて食べるんですよ。
出口:苦労があるほうが、ゲットしたときの楽しさがあるんでしょうね。
池谷:そうでしょうね。人間も小さい子にガチャガチャの中身をそのままあげるより、ガチャガチャの機械があれば絶対に回します。これはもう100%回す。だから人間も同じなんです。年を取って、引退して、年金もらって、働かずに手に入れたお金は、たぶんあまり価値がない。出口さんはいつも「定年なくしましょう」っておっしゃっていますよね。
出口:ええ。
池谷:僕は本当にそうだなと思う。給料が安くなるのは仕方ない。でも、働いて手に入れるのは、脳の本質だと思うんです。
出口:動く物と書いて「動物」です。動物は、自分で動いて、エサを獲ってきますもんね。タダで貰うなんて、動物の世界ではおかしいやないか、ってことですね。
池谷:おかしいです。飼い犬みたいにご主人からもらうことに慣れて2000年経っている犬ですら、レバーを押すんですから。もしかしたら、働く物とかいて「働物」といってもよいかもしれませんね。
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