日本社会に対する侵略者としてのハロウインとTPP
ちょっと時期を逸した感があるが、ハロウインについて書いてみる。
日本人の多くがハロウインに違和感をもつのはなぜか。
結論からいえば、重力が強すぎるからである。
そもそも日本の幽霊や妖怪からは重力というものを感じない。日本の幽霊というのはそのほとんどが足を持たず、空中をただふわふわ漂うだけの存在だ。妖怪もまたどこか異世界の存在にとどまっている。かれらはたとえお盆で互いを隔てる壁が薄くなったとしても、人間界へ無遠慮に足を踏み入れることはない。かれらは礼節というものを知っているのだ。
一方、ハロウインのお化けたちは血みどろのゾンビに象徴されるようにきわめて即物的かつ物質的だ。物質的であるがゆえにリアルな重力感がある。しかも人の庭先までずかずかと入ってきてお菓子をよこせと強要する。要するに礼節をわきまえない「失礼な」存在なのである。
そして重力を感じるということは、かれらがもはや異世界の住人ではなくわれわれと同じ人間界の存在となったことをしめしている。同じ人間界の存在となったということは、われわれの生活空間をかれらが侵しはじめたということである。
これまでわれわれの内側にある世界とその外側にある世界とはきちんと棲み分けがなされてきた。そして互いにその生活圏を脅かさないよう紳士協定が結ばれていた。しかし、いまやそうした紳士協定は破棄されようとしている。われわれの世界はかれらによる暴力的な侵食にさらされているのだ。
ハロウインがしばしばTPPに重ね合わせられるのもそのせいだ。どちらもいまの日本人の生活空間を脅かす存在となっている。そこにあるのは日本社会が異世界の住人に侵略されるという恐怖である。
そしてその侵略の恐怖をさらに具体的なものにしているのが、現在ヨーロッパで問題となっている難民流入という現象である。
世界はいまやあらゆる壁や境界線が取り払われる時代へと突入しつつあるようにみえる。しかし、それが新しい時代をつくる希望の前触れであるのか、人類史上かつてない大混乱の予兆であるのかについてはいまのところ予測はつかない。