未来人との会話 ベーシックインカムと雇用

ベーシックインカムが導入された2050年の未来からやってきた未来人と現代人との会話

【登場人物】

未来人

ベーシックインカムが導入された2050年の未来からやってきた未来人 歴史オタクで大正時代のコスプレがお気に入り

まりえちゃん

現代に生きる女性 世の中、なんか変だよと疑問を抱きはじめた20代前半の派遣社員

雇用は不安定な方がよい?

長引く不況とコロナ禍で最近、職を失う人が増えているそうね。私もいつそうなるかわからないし、とても他人事とは思えないわ。
そういえば、2050年の雇用ってどうなってるの? やっぱり今より安定しているの?

雇用の安定? なんだそれ? 雇用なんてむしろ不安定な方がいいんだよ!

ええっ?

もちろんベーシックインカムがあるという前提での話だけどね。そもそもBIがあれば雇用なんて別に安定してなくてもいいんだよ。むしろ雇用は不安定な方がいいんだ。実際、未来社会ではそれでうまく回っている

どういうこと?

まず失業者の方からみていこう。雇用がなくなっても、つまり失業してもその人はBIがあるからそれほど困ることはない。とりあえず食べていくことができるからね。

それはそうね。BIのない今のような社会で職を失ったら、それなりの蓄えがないとその日から露頭に迷うことになっちゃうもんね。その心配がないならたしかに失業したってたいした問題じゃあないわよね。

その通りだ。それでまた働きたいというのであれば、別の職場を探せばよいだけの話だ。

でもそんな簡単に新しい職場がみつかるものかしら。

見つかるさ。むしろ今のように雇用の流動性が低い社会の方が見つけにくいだろ?

どういうこと?

社員が何十年も居座っているような会社では、仕事の「空き」はなかなか出てこない。つまり、仮にその会社に転職したい人がいたとしても、その居座っている人がいなくならない限り、その会社に転職できる可能性はほとんどない、ということだ。

そうだわね。居座る人がいなければ、常に「空き」が出るわけだし、そうなれば転職者はむしろ大歓迎ということになるわね。

また雇用の流動性が高まることは企業にとってもメリットがあるんだよ。生産性が高まるからね。

どういうこと?

わかりやすくいえば、無能な人を即クビにできるからだよ。

ええ! それってヤバクない? 気に入らない人は経営者の独断で即クビにできるってことでしょ?

それのどこが問題なんだい? 利益を最大化するというのが企業の本来のありかただ。そうである以上、生産性の低い人をクビにして生産性の高い人を新たに雇い入れるのは、経営者として当然の選択だ。むしろそれでこそ適材適所が実現できるわけだしね。それとも使い物にならないからといって窓際族に追いやったまま、飼い殺しにしてもかまわないとでもいうのかい?

そういうわけじゃないけど、でも‥、気に入らないという理由で人をクビにするのは道義的にいってもよくないことなんじゃない?

もし生産性が高いのに、気に入らないからという理由だけでクビにしたら、その分、会社の利益が減るわけだから、それは経営者の自業自得というものだ。そんな会社は早晩つぶれてしまうだけだよ。

う〜ん、そんな風に割り切れるものなのかなあ。。

今の人は仕事が何か自分の人格の一部であり、仕事を奪われることは人格を否定されることででもあるかのように考えているけど、そもそもそれが間違いの元なんだよ。

本来、会社の仕事なんてのは、もともと経営者が掲げる夢、というかビジョンというか、要するにわがままに付き合うようなものだからね。それに共感できるうちは協力すればいいし、できなくなったら手を引けばいい、それだけのことだ。

仕事を経営者のわがまま、って言い切っちゃうところはさすが未来人ね(笑)

もちろん、そういう経営者のひとりよがりのような仕事があるのは否定しないわ。でも、社会にとって欠かせない重要な仕事っていうのも一方では確実にあるんじゃない。ほら、なんていうんだっけ?

エッセンシャルワークだろ。それとこれとは別だ。僕が言っているのは、そういう社会全体のマクロなレベルの話ではない。経営者に従業員を管理する能力があるかないか、という会社レベルでのミクロな話だ。

経営者の能力が高ければ生産性の高い従業員が無闇にクビになることは少ないだろうし、そうでなければ有能な社員がどんどんやめていってしまい、結局会社はつぶれるだろうし、またそうなれば別の会社がそれに取って代わる、というだけの話だ。

なるほど。いずれにせよ、雇用の流動性が高まれば、仕事を求める人も会社側もハッピーになれるってことね。

その通りだ。それに古株しかいない会社にぽつんと一人だけ転職者が入ったとしても、居心地悪いだろ?

そうね。一人だけ浮いちゃいそう(笑)

だから雇用の流動性は高い方がいいんだ。その方が社会的にも転職しやすい自由な雰囲気が出てくるし、またその分、会社の風通しもよくなるからね。つまり雇用なんて不安定な方がいいいんだよ。

でもさあ、若い人なら転職しても新しい環境になじみやすいからいいけど、高齢者はどうなの? 歳を取ったらなかなかそういうわけにもいかないんじゃない? 新しい知識を吸収するのにも限界があると思うし。

だからベーシックインカムなんだよ。雇用の流動性が高まれば生産性が高まる。なぜなら適材適所が実現するわけだからね。そしてその結果、当然のことながら社会全体の生産性も高まる。これが何を意味するかといえば、ベーシックインカムの支給額を上げる余裕が出てくるということだ。

ベーシックインカムの支給額が上がれば、それだけ余裕のある暮らしができるようになる。そうなれば、無理して会社に雇われる必要はないわけだよ。

なるほど〜

それに高齢者であっても、自分でビジネスを立ち上げるという選択肢がないわけじゃない。なんといってもベーシックインカムがあるんだから、仮に失敗しても食うに困るようなことにはならないしね。

そこまで本格的なビジネスでなくても小遣い稼ぎ程度なら誰にでもできそうね。自分の好きなこと、得意なことをやればいいんだから。

そうだ。もしかしたらそれが画期的な商品開発につながり、社会にも大きな付加価値をもたらすともかぎらないしね。長い経験と蓄積された知識をもつ高齢者の潜在力をバカにしちゃあいけないよ。

実際、僕のいる未来社会では高齢者が開発した商品がかなりの割合を占めている。なにせ高齢化社会だからね。高齢者のニーズは高齢者にしかわからないということだよ。

なるほどね〜っ!