ベーシックインカムは国民の生産性を最大化させる理想的な分配制度である
ベーシックインカムは生産性を最大化させる分配制度である 会社の給与制度との比較でみるベーシックインカム
以下は『ベーシックインカム「日本も導入の実験を」ブレグマン氏』の記事をモチーフにした私の意見です。
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これはブレグマン氏の見解ではなく記者の見解なのかもしれないが、ここで「福祉政策をすべてやめる代わりに」と書いてあるのが気になる。ベーシックインカムと福祉政策は別ものである。しかるに昨今の議論をみていると、ベーシックインカムが福祉政策の切り捨ての口実にされる傾向があるようだ。
どのような社会であろうと、その制度からこぼれ落ちる人は必ず出てくる。人を襲う不幸というのは制度設計者の想像を超えたものだからだ。まさに事実は小説より奇なりがこの現実世界なのだ。
したがって、ベーシックインカムが導入された場合でも福祉政策は絶対に切り捨ててはならないものである。
その上での主張なのだが、私の考えではベーシックインカムはセーフティネットではない。いやもちろんそのような側面もあるし、それも大きな側面であることは否定しない。が、それは本質をなすものではない。そうではなく、それ以上に重要視されるべきなのは社会全体の生産性をバランスよく向上させるその効果の方である。
このことを考える上でヒントとなるのは会社の給与制度である。会社の給与制度は一般に固定給プラス成果給という形のものが多い。一定レベルの基本給を保証した上で成果に応じて報酬が上乗せされるというものだ。なぜそのような上乗せ形のものが多いのか? それが一番生産性が高くなることが経験上わかっているからである。
完全成果(歩合)給の下では、たしかに社員はガツガツ働くが、同時に会社全体の利益より自分の利益を優先しがちになる。そのためチームプレイが生まれにくくなり、場合によっては互いに足を引っ張り合うケースも出てくる。また十分な成果をあげられなかった場合、仕事に対するモチベーションを失い、会社を辞める人も多くなる。その結果、新規採用やそれにかかる教育のコストばかりが膨れ上がる。そればかりではない。社員は仲間というよりライバル同士であることから人間関係もギスギスし、ストレスがたまりやすくなる。そのため、社内のモラルが低下し、様々な問題が生じてくる。そうして結果として、会社全体としての生産性と利益までもが低下してしまうのだ。
一方、完全固定給の場合はどうか。当然ながら誰も働かなくなるだろう。成果を出すことへのモチベーションが働かないからだ。これは社会主義国家がなぜ失敗したかをみればこれ以上の説明は不要であろう。
資本主義と株式会社の登場以来、数世紀にわたる試行錯誤の末、経営者たちがたどりついたのはその中間、すなわち固定給プラス成果給という仕組みである。なぜか? この仕組みこそが、社員のモチベーションとモラルを高め、同時に会社全体としての生産性を最大化させる上で、最善のものだからだ。
ベーシックインカムはちょうどこれと同じ仕組みである。ここでいう固定給の部分がベーシックインカムに当たるわけである。
現在の社会はいわば完全歩合制の会社のようなものである。自分の利益を優先し、互いに足を引っ張り合い、ストレスばかりが増大するのはこの社会が「完全歩合制」の仕組みで動いているからである。もちろん、いまだ実現できていないため比較することはできないが、国全体としての生産性もベーシックインカムのある社会に比べれば著しく損なわれているはずだ。
福祉制度の話に戻ろう。会社が固定給を支給するからといって、福利厚生をすべてやめてしまうのが得策でないように、ベーシックインカムを福祉制度の代替品とみなすのは間違っている。
ベーシックインカムはなによりも社会全体の生産性を最大化させる制度である。私たちはまずこのことを理解すべきである。福利厚生と給与制度がそうでないように、福祉制度とベーシックインカムもどちらかひとつしか選べない二者択一的関係にあるものではない。それは経営者もしくは政治家が下々の者に与える「温情的措置」のようなものではなく、むしろ組織全体を活性化させるために不可欠な、ある意味、経営的学的な発想に基づく方策なのだ。
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財源についても同様である。国家紙幣を利用すれば、財源の問題はなくなる。これについては長くなるので割愛するが、財源にこだわる議論は本末転倒だ。
そのことは会社の経営者であればわかるだろう。「財源がないからできない」という経理担当者の意見をそのまま聞いていたら会社など経営できない。むしろ「会社を成長させ財源を生み出し、それによって会社を成長させ続ける」のが経営者の仕事であるはずだ。
同様に政治家は財務官僚の言うことを額面通り受け取ってはならないのである。
ベーシックインカム「日本も導入の実験を」ブレグマン氏
毎日新聞2017年5月16日
必要最低限の生活を保障する収入を人々に支給する「ベーシックインカム」の導入を呼びかける、オランダの歴史家でジャーナリストのルトガー・ブレグマン氏(29)が16日、横浜市港北区の慶応大学ビジネス・スクールで講演した。ブレグマン氏はカナダやフィンランドでのベーシックインカムの社会実験について紹介し、「貧困は国家のコストを増大させている。AI(人工知能)の出現で仕事のあり方が激変する今、日本でも小規模の実験を行うべきだ」と語った。
ベーシックインカムは約500年前、英国の哲学者、トマス・モアが提唱した貧困根絶策。福祉政策をすべてやめる代わりに、国民の権利として現金が支給され、使い道は自由。1970年代にはカナダと米国で社会実験が行われた。その結果、犯罪件数や子供の死亡率、家庭内暴力の件数が減少し、病院の入院期間の短縮や学業成績の向上が見られたという。
この日、ブレグマン氏は慶応大学大学院の岡田正大教授とパネルディスカッションもした。岡田教授が生活保護とベーシックインカムの違いを問うと、ブレグマン氏は「ベーシックインカムは施しではなく人間に対する投資。国民全員に無条件で支給する点が、生活保護と違う」と説明した。また、今年1月にフィンランドで始まった1人600ドルを支給する実験については、「まだしっかりとした結果が出ていないが、被験者のストレスレベルが下がっているといい、大変すばらしい経過だ」と説明した。
質疑応答では財源確保をめぐる質問があり、ブレグマン氏は「財源は国によって違い、税金やファンドなどいろいろな手法がある。処方箋はさまざまだ」と応じた。
ブレグマン氏は著書「隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働」(文芸春秋)の出版を記念し、オランダ大使館の招きで来日した。同書は25日、全国で発売される。【中村美奈子/統合デジタル取材センター】