これからの貨幣のあり方をインスパイアする日本生まれのデジタル地域通貨システムーBASIC
基礎所得(ベーシックインカム)給付型オンライン地域通貨システムBASIC
Banking System for Interaction and Creation—協業と創造のためのSOHO間決済システム
ここにあるのは、地域通貨研究団体・アドマネー推進プロジェクトARCHが2002年、街づくりのためのアイディアとして某自治体へ提出した地域通貨プロジェクトの企画書です。
発案者自身がこんなことをいうと、身びいきの謗りを免れないかもしれませんが、それでもここには、今でいうweb3、あるいはDAO(自律分散組織)といった先駆的なアイディアの萌芽がいくつか含まれているように思われます。
残念ながら提案レベルで終わってしまい、日の目を見ずにお蔵入りとなってしまったものではありますが、ここにあるアイディアのいくつかが、これからの通貨というもののあり方を考える上でなんらかのヒントになってくれたらと思い、ここに公開する次第です。
謝辞
BASICを開発するにあたっては、次の団体・個人から多くのアイディアやヒントをいただきました。ここに感謝の意を表します。
●LETS—-マイケル・リントン氏
●ゲゼル研究会—-森野栄一氏
●LETS会津のみなさん
そしてもちろん次の偉大な先人へも…
●シルビオ・ゲゼル氏
●P・J・プルードン氏
地域通貨とは?
物々交換の発展形=多角間バーター取引システム
全体の残高合計は常に+ーゼロ
「結い」の現代的形態
「結い」:昔の農村でみられた農繁期に
労働力を貸し借りする相互扶助システム
結いのメリット
貨幣がなくても協業が可能になる
IT時代でも、とくに新規事業の立ち上げ時には労働力の貸し借り(コラボレーション)は(とりわけ貨幣不足の場合には)重要
地域通貨とは、ある一定地域でのみ流通する法定通貨以外の「貨幣」をさす。現在、世界で約2000以上、日本でもおよそ150以上の地域通貨運営グループがあるという。
基本原理は多角間の物々交換
地域通貨の基本原理は、多角間バーター取引である。要するに、物々交換の発展形だ。代表的なのは、カナダのマイケル・リントンが1980年代にはじめたLETS(Local Exchange Trading System)である。その最大の特徴としてこのシステムでは、どんなに取引が活発化しても全体の貸し借りの総和は常にプラスマイナスゼロになる。なぜなら、このシステムにおいては利子がつかないからだ。そのため、ここでは物財と貨幣の量は常に対称性を保っているのである。
歴史
地域通貨の歴史は少なくともイギリスのオーエンの労働証明書やフランスのプルードンの交換銀行にまでさかのぼる。一般の人々の関心を集めるようになったのは、世界大恐慌後の1930年代である。当時、景気対策の一環として、ドイツやオーストリアの一部で地域通貨が導入されたのを皮切りに、やがてアメリカやカナダなどにも導入されるようになった。それらの試みは、一定の成果をあげたものの、直後に台頭した国家社会主義的な風潮を背景にその多くが中央政府によって禁止されてしまった。
現代の「結い」
日本にもかつて「結い」と呼ばれる地域通貨に似た仕組みがあった。「結い」は農繁期における相互扶助の仕組みとして発達した日本独自のシステムであり、戦前まで全国各地の農村で普通にみられるものであった。
一方、現在はIT技術の進歩を背景にワークスタイルが大きく変化しつつある。象徴的なのは、大企業における巨大組織の歯車として働くのではなく、小規模な事業所で身の丈に合った働き方を模索する人がふえていることだ。だが、こうした小規模事業所にももちろん弱点はある。なかでも最大のそれは組織力の弱さである。すなわち、それぞれが独立した存在であるため、協業(コラボレーション)が困難であること、そのためみすみす目の前のビジネスチャンスを逃してしまうことだ。
ここに地域通貨のもうひとつの意義がある。それは、地域通貨が小規模事業者同士の協業を促進する手段として有効だということである。その意味で、地域通貨はいわばIT時代の「結い」、現代版「結い」といえるかもしれない。
なぜ地域通貨なのか?
グローバルレベル
南北問題、環境問題、人権問題,、戦争etc → 根本には利子経済
ローカルレベル
デフレ不況からの脱却 → 不足する「貨幣」の補填
コミュニティ再生 → 「冷たい」お金から「温かい」お金へ
事業レベル
マーケティング支援 → 顧客の囲い込み機能
地域通貨の必要性
いまなぜ地域通貨が必要とされるのだろうか。そこには現代社会が抱えるさまざまな問題がからんでいる。それらを整理したのが、この図式である。地域通貨の全体像をとらえるには、われわれはすくなくともこれら三つのレベルからアプローチしなければならないだろう。
ひとつはグローバルなレベルである。ここには、南北問題をはじめ環境問題や人権問題、そして戦争といった地球レベルでの問題が存在する。これらの原因をさぐっていくと、最終的には利子経済へと行き着く。そして現在の利子経済というシステムを変更しない限り、これらの問題は解決不可能、というのが地域通貨の考え方である。
もうひとつはローカルレベルの問題がある。ここには、おもに地域の問題が含まれる。地域はいま経済的不況にあえいでいる。また都市化の進展とともに昔ながらのコミュニティが崩壊の危機にひんしている。これらの問題もまたその根底には利子経済が原因としてあるというのが、地域通貨の考え方である。
またこれまであまり注目されなかったことだが、地域通貨には事業レベルでの効用もある。それは、地域通貨がもつ組織化機能によるものである。組織化機能が、顧客に働きかければ、それはマーケティングでいう「囲い込み」になるし、取引先に働きかければ、それはコラボレーション(協業)促進策となる。
このように地域通貨が対象としているのはなにも地球レベルの問題ばかりではない。それは地域レベルの問題に対しても一定の解決策を提示しうるものだし、さらに応用次第では企業の販売促進や組織活性化の手段としても使えるものなのだ。
(1)グローバルレベル
利子の存在が経済成長を強制する
利子経済は、成長を停めればそれ自体が崩壊するシステム
無理な経済成長は環境破壊をもたらす
利子経済は、貧富の格差を拡大する
利子のない貨幣システムは可能か?
地域通貨の原点は、減価する貨幣
利子経済は成長を強制する
私たちは、利子を当然のものとして受け入れている。だが、それが社会にどのような影響をおよぼすかを十分に理解している人はそう多くない。利子経済がもたらす問題。その最大のものは、それが成長を強制するシステムであるということだ。具体的に説明しよう。
Aさんが銀行から事業資金として100万円を借りたとしよう。年利は5%である。1年後には105万円にして返済しなければならない。そのためAさんは1年間、懸命に働いた。そのかいあって、翌年には金利分をあわせて105万円を銀行に返済することができた。
だが、この5万円はいったいどこから出てきたのだろうか。はじめAさんの手元には100万円しかなかった。ということは、他の人のところからもってきたものに違いない。ならば、その他の人はいったいどこからその5万円を手に入れたのか?
こうやって考えていくと、最終的にたどりつくのが、経済成長の問題である。それはどういうことかといえば、利子を返済するためには、社会全体が利子率以上に成長しなければならない、ということである。Aさんの例でいえば、Aさんが属する市場全体が年間5%以上の経済成長を達成できないかぎり、Aさんが借りた5万円は絶対に返済不可能だということである。仮に経済成長率が5%以下の場合、この5万円に関しては誰かが再びどこかから借金するか、あるいは誰かが破産の憂き目にあわない限り、全体としての帳尻が合わなくなってしまうからだ。それは単純な算数の問題である。つまり、利子経済というのは、金利以上の経済成長を続けない限り、崩壊してしまうシステムなのである。
利子経済がもたらすもの
だが、その一方、無理な経済成長は環境破壊をまねく。これについては、あらためて説明するまでもないだろう。また利子経済とは、つまりお金がお金を生むシステムである。そうしたシステムは必然的に貧富の格差を拡大する方向に働く。しかも、貧富の格差が開くことはたんなる倫理的な問題にとどまるものではない。貧富の格差が拡大すると、市場全体の有効需要が縮小する。有効需要の縮小は過剰生産を生み出し、やがて恐慌の到来を招く。そして恐慌の到来は、戦争の危機を高めることになろう。こうして、貧富の格差拡大は、企業活動にとっても、また私たちの日常生活にとっても重大な影響を与えることになるのだ。
お金が減価するという考え方
だが、利子のない貨幣システムなど実現可能なのだろうか? 利子そのものを完全になくすことは少なくとも現時点ではほぼ不可能だ。だが、それがもたらす弊害を軽減する方法はある。それが、ドイツの生まれの思想家、シルビオ・ゲゼルが提唱した「減価する貨幣」である。といってもそれはけっして社会主義の復活を意味するものではない。それはあくまでも市場にもとづいた市場経済システムである。むしろいま以上に市場主義的な市場経済システムであるといってもよい。20世紀を代表する著明な経済学者ケインズは、かつてこう語っている。「後世の人はマルクスよりもゲゼルからより多くを学ぶであろう」。
(2)ローカルレベル
マネーは経済の血液
解決策は「輸血」と「造血」のふたつ
輸血=「輸出」型産業の振興
造血=自己金融システム(地域通貨等)
お金は経済の血液
お金は経済の血液である。企業の生産活動や私たちの消費生活をはじめあらゆる経済的取引が効率よくスムーズにおこなわれるのは、ひとえにこのお金があるおかげである。ところが、その大事なお金が不足してしまったらどうだろう。血液がとどかなくなった細胞がやがて壊死してしまうように、お金が十分にゆきわたらない地域経済もまた停滞をよぎなくされるであろう。
地域から「お金」が消えていく
じつはいま経済のグローバル化の名の下でおこっているのは、まさにこうした現象である。ここで仮に中央資本の大手流通業X社が地方の小都市であるA町に進出してきたとしよう。
これは、町にとってどのような意味をもつのだろうか。雇用機会を創出するという点では、たしかにX社は地域に貢献しているといえるだろう。だが、その一方で、X社が地元の取引で得た収益は、地元の取引先と地元の被雇用者への支払いを除いて、すべて本社へと流れていくことを忘れてはならない。つまりそこで起こっているのはまさに「マネーの域外流出」なのである。
同じことは、交通機関の発達による商圏の拡大にもあてはまる。道路網が整備されることによって、山形市と仙台市との距離は以前よりずいぶん近くなった。だが、まさにそのゆえにこれまで山形市内で買い物をしていた人の多くが、いまや仙台市で買い物をするようになっているのだ。これもまた「マネーの域外流出」という現象にほかならない。
こうして地域内の経済循環は縮小の一途をたどり、経済の血液として不可欠な「お金」が地域からどんどん消えていっているのだ。
造血手段としての地域通貨
こうした「お金」不足の解決策にはふたつある。ひとつは、町外からお金を持ってくるという方法である。だが、そのためには全国レベルで通用するだけの商品力をもつ企業を育成する必要がある。いわば「輸出型」産業の育成だ。このためにはマーケティング力の強化をはじめ多くの取り組みがなされねばならない。もうひとつは、自己金融システムの整備である。これは、本来ならば地元の金融機関の役目である。地元の金融機関が金融機関だけにみとめられた特権である信用創造機能によって、地元企業にお金を貸し出し、地域内の貨幣流通量を増やすのだ。ところが、いまは金融機関がその機能を果たしていない。そこで、いまや金融機関とは別の「造血」手段が必要になっている。その手法のひとつが「地域通貨」である。
コミュニティ再生ツールとしての地域通貨
地域通貨にはもうひとつの面がある。それは人々の間に信頼を生み出すお金だということである。一般に円貨は、別名縁切り貨幣ともいわれる。それは「手切れ金」という言葉があることからもわかるだろう。一方、地域通貨は別名縁結び貨幣ともいわれる。なぜなら地域通貨は、それを使う人々の間の信頼の絆をさらに強める効果があるからだ。その意味で、地域通貨はコミュニティ再生のツールとしても期待されている。
(3)事業レベル(マーケティング支援)
マスマーケティングから1to1マーケティングへ
力点は、顧客獲得から顧客つなぎ止めへ
顧客の囲い込み戦略が有効
地域通貨と囲い込み戦略との親和性
会員制、ポイント制、クーポン、ブランド戦略etc
マーケティングパラダイムの転換
いまマーケティングの世界では、マスマーケティングから1to1マーケティングへ、という大きなパラダイム転換が起こっている。1to1マーケティングとは、一人ひとりのお客さまを大切にしよう、リピート客としていつまでもおつきあいいただけるよう大事にしていこう、という考え方である。その背景には、高度成長時代が終わったことがあげられる。成長が頭打ちになった以上、市場の急拡大はのぞめない。そのため、新規に顧客を獲得するよりも既存顧客を維持し、育てるほうにコストをかけたほうがよい、となったわけである。
地域通貨は囲い込み戦略
ところで顧客を育てるためには、その前提として顧客をDB化しなければならない。これがすなわち、マーケティングでいうところの囲い込み戦略である。そして、容易に理解できるように、じつは地域通貨は、この囲い込み戦略とはきわめて相性がよい。そもそも地域通貨は、会員を囲い込んだところで機能するものであり、さらにその活動自体、地域通貨ネットワークへのロイヤルティ(忠誠心)を高めることになるからだ。
マーケティングから地域通貨へ
そのせいかどうか、いまマーケティングの世界で試みられている囲い込み戦略の手法は、きわめて地域通貨的である。もちろん、その根本にある思想は、地域通貨本来のそれとはまるで異なるものであることはいうまでもない。だが、そこに見られる類似は、今後の経済社会のあり方を占う上できわめて興味深い現象であるといえよう。
(4)事業レベル(コラボレーション促進)
有機農業家Aさんの場合
オンラインショップを立ち上げて
全国に野菜を売りたい
ウエブデザイナーに頼むにはお金がかかる
お金はないけど、野菜ならあるんだが‥。
ウエブデザイナーBさんの場合
こんなプログラムがあれば
面白いビジネスモデルができるのだが‥。
プログラム開発を外注するとお金がかかる
お金はないけど、デザインなら
いくらでも提供できるんだが_‥
プログラマーCさんの場合
有機野菜が欲しいんだけど‥。
お金を出してまで買うのもなあ‥。
プログラム開発の代わりに
有機野菜を譲ってもらえないかなあ‥。
お金はないが野菜果物ならある
有機農業を営むAさんはいま、オンラインショップの立ち上げを計画中だ。それを使って自慢の有機野菜を全国に売ろうというわけである。ところが、困ったことにHPの制作をデザイナーに頼むだけの現金がない。 Aさんがこぼす。「現金はないけど、野菜ならいくらでもあるんだけどなあ‥」。
同じ頃、ウエブデザイナーのBさんも頭を抱えていた。「こういった仕組みのプログラムがあれば、面白いHPができるんだけどなあ。プログラマーに頼んだら、けっこうお金がかかるんだろうなあ‥」。
またプログラマーのCさんにもちょっとした悩みがあった。「体によい有機野菜が食べたいんだけど、とはいえお金を出してまで買うというのもなあ。もしだれかが有機野菜をくれるというのなら、お礼にちょっとしたプログラムを作ってあげてもいいんだけどなあ‥」。
お金がなくとも物々交換で
このケースでは、3人は各自の需要と供給において、互いに補完的な関係にある。そのため3人は、お互い納得さえすれば、通常のお金を介することなく、それぞれ欲しいものを物々交換の形で入手できるはずだ。じつはそれを可能にするのが、多角間バーター取引という仕組みである。そして、これこそが、地域通貨の基本的な仕組みなのである。
3 地域通貨で何ができるか?
(1)QOLの向上→住みやすい地域づくり
グローバル経済に対抗するセーフティネットとして
●購買力の域外流出を防止
●景気変動の影響を最小化●失業を防止●過度な競争によるQOL低下を防止
経済振興ツールとして
●貨幣供給量の増大による取引促進効果
●地産地消の促進
●コミュニティビジネスの創造
●ベンチャービジネスの孵化
コミュニティの再構築ツールとして
●地域に運命共同体意識(連帯感と愛郷心)がうまれる
●対外的な評価(ブランド価値)が高まる
●コミュニケーションの多様化(グレーゾーンの拡大等)
QOL向上を助ける地域通貨
地域通貨にはいくつかの機能がある。代表的なのは、「グローバル経済に対抗するセーフティネット機能」「経済振興機能」「コミュニティの再構築機能」の三つである。そして、これらの三つの機能がうまく発揮された時にはQOL(Quality of Life)の向上、つまり住みやすい町が実現されることになる。
グローバル経済に対抗するセーフティネット機能 グローバル経済の地域への浸透は、まず購買力(お金)の域外流出となって現われる。また世界経済と直接リンクされる割合が増えるため、世界的な景気変動など外部的な不安定要因に翻弄される危険性も増す。さらに購買力の域外流出は、地元企業の存立基盤をあやうくさせ、やがて企業の倒産とそこで働く社員の失業をまねくことになる。倒産や失業がいやなら、そこで働く人は人よりもよけいに働かねばならない。だが、働く時間がふえればその分、家庭生活にさく時間や余暇を楽しむ時間が失われる。その結果、QOLは低下する。それらをある程度ふせぐセーフティネットとしての役割も地域通貨には期待されている。
経済振興ツール
貨幣は市場の支配者である。なぜなら、商取引のためには、その大前提としてまず「お金」がなければならないからだ。お金がなければ取引はおこなわれないし、取引が期待できなければ商品そのものが生産されない。いっぽう、グローバル経済の下では、ほうっておけば「お金」は地域からどんどん流出していく。局地的なデフレ現象はますますひどくなり、そのデフレがまた商取引を抑制しそれが生産を抑制し、雇用を抑制し、その結果ますます貨幣不足(デフレ)をもたらす、という悪循環に陥ってしまう。地域通貨は、そうした貨幣不足を補うと同時に、円貨との併行通貨制を採ることで、円貨が域外に流出することを防止する機能をもつ。
また地域内でしか通用しない地域通貨の使用は、必然的に地産地消をうながす。同時に地域通貨による商取引の増加は、損益分岐点の相対的低下をもたらし、その結果、地域の課題を地域で解決するコミュニティビジネスが生まれる可能性も高くなる。さらにコミュニティビジネスで訓練をつむことで、本格的なベンチャービジネスが生まれる可能性も高くなる。
コミュニティの再構築
地域通貨は、人と人をつなぐ紐帯としての役割をもつ。そのため、地域通貨を導入した地域には、ひとつの運命共同体としての連帯感と愛郷心が生まれる。また地域通貨の導入によってもたらされるQOLの向上は、地域全体のイメージアップにもつながり、訪れたい観光地、あるいは永住したい町として、対外的なブランド価値が高くなる。またそれまでビジネスライクなつきあい(お金をもとにしたドライなつきあい)と、信頼をもとにしたつきあい(友人同士のウエットなつきあい)とのふたつに二極分化されていたコミュニケーションのありかたにも多様性が生まれ(グレーゾーンの拡大)、それがまたQOLを向上させるという好循環を生むことが予想される。
(2)企業の孵化→コミュニティビジネスからグローバルビジネスへ
ビジネスの発展段階
併行通貨制度が可能にする各ビジネスレベル間の住み分け
円貨ベースでは利益が出ない超ニッチ市場でも地域通貨ベースなら利益を出すことが可能。
基礎所得(ベーシックインカム)給付による起業モチベーションの増大(衣食足りて、ボランティア興る) → コミュニティビジネスの創出へ
コミュニティビジネスは存立不可能
コミュニティビジネスは、そのままではビジネスとして成立しない。なぜか? 本来、資本主義というのは、利益のあるところ、どこへでも侵入するどん欲な運動体である。それは倫理的にふさわしくない領域でさえ、利益が出るのであれば、法の目をかいくぐってでも浸透していく性質をもっている。ところが、コミュニティビジネスが対象としているのは、そのどん欲な企業ですら、手を出さなかった領域である。なぜ手を出さなかったのか? 答えは簡単だ。利益が出ないからである。ではなぜ利益がでないのか? 損益分岐点を下回るからである。
問題は損益分岐点
損益分岐点というのは、どれだけの量を売れば利益が出るか、あるいは出ないかというポイントのことだ。損益分岐点を上回るだけの量の商品を売らないと企業は、利益が出ない。この損益分岐点は、通常、市場の大きさに左右される。市場が一定以上の規模がないと損益分岐点を上回ることはない。つまり、コミュニティビジネスが、ビジネスとして成立してこなかったのは、ひとえにその市場規模が小さすぎたためである。
このような市場で無理矢理ビジネスを起こそうとしても、失敗するのは目にみえている。だが、方法がないわけではない。要は損益分岐点を下げてやればよいのだ。では、損益分岐点をさげるには、どうするか? もっとも簡単なのは、被雇用者の給料を下げることだ。被雇用者の給料を下げれば、人件費がさがって、その分、損益分岐点も下がることになる。だが、給料が下がってもやっていけるのは、生計費を配偶者や親に頼っている主婦や学生アルバイトなどに限られよう。家計を支える一般の成人男子が被雇用者の場合、それではとてもやっていけないはずだ。
補助金によるコミュニティビジネス支援は危険
ではどうするか? ひとつは補助金を出すという方法がある。補助金でもって下がった人件費分を補ってやれば、被雇用者の給料は以前と同じレベルのままである。そのうえ損益分岐点はあいかわらず下がったままだから、企業としても利益を出すことは可能になる。だが、このような方法は、コミュニティビジネスとローカルビジネスの境界線上で、ほそぼそとやっていた企業に対して深刻な打撃を与えることになろう。しかもそれは正当な市場競争によらないいかにも不公平な打撃である。コミュニティビジネスを無理矢理創出した結果、ローカルビジネスをつぶしてしまったというのではもともこもない。それこそ、角を矯めて牛を殺す、ということになってしまうだろう。
併行通貨制が解決策
それではコミュニティビジネスを創出するのはまったく不可能なのだろうか? 方法はある。それは地域通貨をからめることだ。具体的には円貨と地域通貨を両方組み合わせる形で流通させることである。こうすれば、企業はその商品力に応じて、どれだけ円貨を稼げるか市場による正当な評価を受けることになる。たとえばコミュニティ市場でしか通用しない商品の場合、必然的に円貨の割合は小さくなるだろう。反対にグローバル市場でも十分通用するだけの商品に対しては、円貨100%という値付けでもかまわないだろう。そして、中間のローカルビジネスレベルであれば、円貨50%+地域通貨50%といった割合になるはずだ。
(3)域内取引の促進
■発注先選択のケース
地域通貨ネットワーク内での取引の方が有利になる。
域内取引の促進ー発注先選択のケース
ここに、HPデザインを外注したいA社があるとする。外注先を募集したところ最終的にB社とC社の二社に絞り込まれた。B社とC社が提供できるサービスは、いずれもまったく同じレベルである。あとは、どちらがより安い価格を提示できるか、という部分が決め手になる。それに対して、両社が提示してきた価格は、それぞれA社が8万円+2万cc、B社が10万円であった。ここでもしA社が2万ccの地域通貨をもっていたとしよう。その場合、A社は間違いなくB社を選ぶことになるだろう。
この例でわかるように、商取り引きをおこなう場合、地域通貨ネットワーク内での域内取引の方が、発注先(消費者側)にとって有利になる。また受注者(生産者側)にとっても、域外のライバル企業に対して地域通貨使用の分だけ優位性をもつことになる。
(4)受注力(利益)の向上
■対外取引のケース1
対外取引の促進ー受注利益向上のケース
A社はX社からHP構築を100万円で受注した。しかし、A社だけでは力不足なので、A社が企画を、B社がデザインを、そしてC社がプログラム部分を担当する、という形で分担して仕事を進めることにした。通常ならば、B社に30万円、C社に30万円を外注費として支払い、A社のもとに残るのは、40万円だけである。ここでもし、外注費を地域通貨で支払ったらどうだろうか? A社には100万円まるまる残ることになる。もちろんA社はB社、C社にそれぞれ30万円、計60万円相当の地域通貨を提供する(すなわち労力を提供する)という負債は残るだろう。だが、円貨の60万円を獲得するのと、60万円相当の地域通貨を獲得するのと、A社にとってはどちらがより容易であろうか? いうまでもなく後者である。
この例でわかるように、域外企業から仕事を受注した場合、受注企業は地域通貨ネットワーク内で外注先を探した方が、域外企業に外注に出すよりも有利となる。
(5)受注力(価格競争力)の向上
■対外取引のケース2
域内企業は、域外企業に対し地域通貨取引分だけ価格競争力をもつことができる。
対外取引の促進ー価格競争力向上のケース
A社がX社からHP構築を100万円で受注したとしよう。通常ならば、A社に残る利益は外注先に支払った残りの40万円であった。ここで、仮に外注先への支払いをすべて地域通貨でまかなえるとしたらどうだろうか。A社は受注金額を40万円まで引き下げることが可能になるはずだ。なぜなら、A社は最終的に40万円さえ手元に残ればよいのだから。
この例からもわかるように、仕事を受注する場合、地域通貨参加企業は域外企業に対して価格競争力をもつことになる。
参考1 協業促進の仕組み
協業のための組織形態
ここで協業のために必要な組織形態について考えてみよう。協業のための組織形態としては、「ピラミッド型」「アウトソーシング型」「プロジェクトチーム型」などが代表的である。ここでは、それぞれの組織形態における長所、短所を「短期的な利益動機」「長期的な利益動機」「ロイヤルティ(組織への忠誠心=対外的にはその組織のブランド力)」という視点から整理してみた。
アメーバ型組織としての地域通貨ネットワーク
このうち地域通貨はどのタイプに当てはまるのだろうか。じつはどれにもあてはまらない。しいていえば、ピラミッド型とプロジェクトチーム型の折衷型であり、それぞれが独立したメンバーが自主的に集合したゆるやかな組織体である。あえて名付ければアメーバ型組織といえよう。
内部貨幣による外部貨幣の代替
ただBtoB型地域通貨は、域内取引からの短期利益を犠牲(内部貨幣化による外部貨幣の放棄)にすることで対外取引からの長期利益を期待するという意味では、ピラミッド型組織に似ているといえないこともない。それはまた(内部貨幣使用の副産物として)ネットワークへの忠誠心が高まるという意味からもいえるだろう。しかしそうした制約の中にあっても、個々のメンバーはあいかわらず独立性を保っているという点ではむしろプロジェクトチーム型に近い。
擬似的な組織化のツール
こうしてみてくるとBtoB型地域通貨というのは、個々の独立したメンバーを一定の枠組の中に組織化するための手段とみなせないこともない。その意味では、 BtoB型地域通貨はいわば擬似的な組織化のツールといえるだろう。
参考2 地域通貨と地域開発戦略
モノ、金が主役の工業資本主義時代
20世紀の資本主義を特徴づけた大量生産・大量消費型の経済システムは、モノの生産に最大の価値を見い出す工業資本主義であった。その時代における地域開発戦略は、工場の誘致からはじまった。新たに誘致された大工場は、雇用を生み出し、地域を豊かにする。さらにそこから地域へと移転される高度な技術は、新たな工場群を生み出し、地場産業を創出した。そして、そうした好循環を形成する上で重要な役割をになったのが、金融である。工業資本主義時代における主役は、モノであり、お金であったのだ。
人、情報が主役の知識資本主義時代
一方、これからは知識や情報が価値を生む知識資本主義の時代といわれる。では、知識資本主義時代における地域開発戦略のトリガーとなるのは、一体なんだろうか。それは人材である。ユニークな知識や技術をもつ人材とのコラボレート(協業)は、企業に新たな付加価値をもたらす。と同時に人材と企業、人材と人材とのコラボレートはやがて新規事業を生み出す。そしてその新規事業が雇用を生み出すことになろう。そして、ここでの主役は、もはやモノやお金ではない。それは、人であり、情報(地域通貨)なのである。
東北の現状
全国的に景気が低迷する中、東北経済にも先のみえない閉塞感が漂っている。そして、そこには、地元企業の低迷→雇用の場(所得)の減少→QOLの低下→消費抑制→地元市場の縮小→地元企業の低迷という悪循環がみられる。
なぜこのような悪循環がつくられたのだろうか。そのトリガーとなったのは、グローバル経済化とそれがもたらすデフレ不況である。
今後の方向性と地域通貨による解決策
わたしたちは、こうした悪循環を断ち切らなければならない。それもできれば悪循環を逆回転させ、好循環を創りださねばならない。ではどうするか。新しいトリガーの投入が必要だ。新しいトリガーとは何か。ここではマーケティング、協業支援、そしてマネーの域内循環の三つをあげたい。そして、こうしたトリガーを創り出す具体的な手法として、地域通貨の活用を提案したい。地域通貨はもともとマネーの域内循環をつくるための手法であるが、応用次第ではそれにとどまらない様々な効果が期待できる。上図は、そのあたりを整理したものである。
地域通貨(BASIC)の仕組み
(1)概要
オンラインLETS方式
消滅貨幣方式
基礎所得(ベーシックインカム)の給付
円貨との併用
貨幣発行権を上場組合に限定
ここで提案するのは、BASIC(Banking System for Interaction and Creation)という地域通貨である。その特徴は
(1)オンラインLETS方式
(2)消滅貨幣方式
(3)基礎所得(ベーシックインカム)の給付
(4)円貨との併用
(5)貨幣発行権を限定
という5つのポイントにある。
なかでも、「基礎所得(ベーシックインカム)の給付」という部分は、世界でも初めての試みであり、現在運営されている中ではもっとも先進的な地域通貨システムのひとつといえるだろう。
もちろん初めての試みとはいえ、それはけっして「実験的」とか「実現性が薄い」といった意味をもつものではない。むしろそれは東北が置かれている環境の優位性を示すものである。
そもそもこのBASICが適切に機能するためには、いくつかの条件がある。それは、参加者の多くがインターネットにアクセスできること、市民社会として成熟した民主的な共同体であること、食料資源が豊富であること、多様な技能をもつ参加者が得られること等々である。そして、こうした条件をクリアできる地域というのは世界的にみてもじつはそう多くない。その点、テクノロジーが高度に発達した日本という民主主義国家のなかにあり、しかも自然にめぐまれた東北地方は、まさにうってつけの環境だといえよう。いいかえれば、このBASICは、そのような優位性をもつ東北だからこそ実現可能な「世界でもっとも先進的な」地域通貨システムなのだ。
(2)全体イメージ
システムの概要
BASICの参加メンバーは、三つのグループに分かれる。一般参加者、事業者、上場組合である。さらにその上部機関として管理委員会が存在する。
この管理委員会の最大の機能は貨幣発行である。BASICにおける貨幣発行の仕組みは、次の通りである。
まず、上場組合のメンバーが、管理委員会に対して担保として「労力あるいは財」の提供を約した証書を提出する。管理委員会はその証書と引き換えに「貨幣」をそのメンバーに対して発行する。発行された貨幣は、そのまま「お金」として使用できる。それは上場組合内部だけでなく、事業者レベル、さらに一般参加者レベルにおいても自由に転々流通する。
基礎所得(ベーシックインカム)の徴収・分配
管理委員会は、基礎所得(ベーシックインカム)の給付をも司る。その原資となるのは、取引毎にかけられる所得税と、自然減価分である。そのため、メンバー間の取引が活発になればなるほど、メンバーが受け取る基礎所得(ベーシックインカム)の額も増えることになる。なおこの基礎所得(ベーシックインカム)給付に関しては、インターネット上ですべて自動的に徴収・分配がなされるので、そのための追加的なコストがかかることはない。
管理委員会
上場組合員、事業者、一般参加者から選ばれた委員により構成。貨幣流通量を司る。
上場組合
事業者の中で信用と実績のあるメンバーのみがなれる。CC発行権をもつ。ただし発行額にみあった受け入れ実績がないと管理委員会により貨幣発行権を縮小、または剥奪される。→裏書証書型地域通貨WATをコアとするシステム
事業者
SOHO、農家、自営業、NPO、一芸市民およびそのグループ等、円貨市場において評価可能な専門的サービスを提供できるメンバー。CC発行権はない。
一般参加者
円貨市場で評価されるだけの技能をもたない上記以外のメンバー。CC発行権はない。
(3)基本原理
LETS(Local Exchange Trading System)=多角間決済システム
特徴
・総取引額の合計は常に+-ゼロ・紙幣類似証書を使わないため、法的規制がゆるい
・インターネットを使えば、決済がより容易に
基本原理はLETS
BASICの基本的な原理としては、前述したLETS(Local Exchange Trading System)を採用する。その特徴は、取引額の総計が常にプラスマイナスゼロであること、インターネットを使えば決済をはじめ、管理が容易であることなどがあげられる。また紙幣類似証書を使わないため、法的規制にも抵触しにくいなどのメリットがある。
(4)取引方法
・メンバーはあらかじめネット上に各自の口座をもつ
・A(販売者)は、B(購買者)へ100CC相当の財・サービスを提供する
・Bはその見返りに自分の口座からAの口座へ100CCを振り込む
ネット口座による取引
具体的な取引方法は次の通りである。
AがBに100cc相当の財・サービスを提供したとする。それに対して、Bはまずパソコンあるいは携帯電話を使ってHP上に開設された自らの口座にアクセスする。そこで、Bは自らの口座にある100ccを引き出し、同時にAの口座に振り込む–。これで取引は完了である。ちなみにこれはすべてHP上で完結する作業である。
(5)決済の方法
●ウエブまたは携帯画面上で決済
・購買者が販売者の口座にネット(ウエブ&携帯)を利用して直接振り込む方法。
BtoB取引、またはお互いに信頼関係で結ばれている場合に推奨
●代用紙幣(小切手)で決済(要検討)
・購買時点では代用紙幣を渡して仮決済、その後、管理委員会へ持ち込み、本決済する方法。
・店頭での取引等、ネット決済が難しい場合に推奨。なお代用紙幣は月末まで、原則として一度しか使えない(一度取引に使われた後は無効となる)。有効期限を明示するため月別に色分けすることも検討。
代用紙幣の入手方法
・管理委員会からネット口座の減額と引き換えに入手できる。ただし代用紙幣には有効期限を設け(または月別に色分けする)、退蔵およびそれ自体の転々流通を防ぐ。
原則はオンライン決済
BASICの決済は、原則としてインターネット上に開設された各自の口座(ホームページ)を使っておこなわれる。そこへアクセスする手段としてはパソコンまたは携帯電話を利用することになろう。だが、ここには問題もある。それは、決済をいつ行うか、という問題だ。商品の販売には、通常リスクがともなう。購入者が、代金を支払うことなく商品を持ち逃げしてしまう可能性があるからだ。したがって、オンライン決済は、(商品の受け渡しと代金支払いがその場でできるのでない限り)たがいに顔見知りである等、当事者同士が一定の信頼関係で結ばれていることが前提条件となるだろう。一般にBtoB取引においては、その場での現金決済というのはそれほど多くない。その点、これはそう大きな問題ではないかもしれない。だが、一般の小売り業のように不特定多数の客を相手にせざるをえない業態の場合、これではやはり不便であろう。
代用紙幣
そこで、ここでは代用紙幣の使用を提案したい。代用紙幣の仕組みは、次のようなものである。
1、代用紙幣は、オンライン決済における口座(残高)と同様、通常の取引において「通貨」として使用できる。
2、代用紙幣を受け取った者は、それを管理委員会に持ち込むことで、自分の口座にそれを加算することができる。
3、代用紙幣は、管理委員会からネット口座の減額と引き換えに入手できる。
ただし、この方法には問題もある。それは、取引税の徴収ができないことと、減価させることができないことだ。そこで、次のような方法を採ることも考えられる。
1、代用紙幣には有効期限を設ける(有効期限を明示するため発行月毎に色を変える方法もある)。
2、代用紙幣を発行する際、転々流通を見越してあらかじめ、一定比率の税を課す。
このあたりは、今後検討を要する部分である。なお、これに関しては次のような案も考えられる。
1、個人発行の小切手方式にする。
2、広告スペースを設け、そこへの広告掲載の見返りに協賛企業から紙代、印刷代、市民所得分等を負担してもらう。
(6)消滅貨幣方式と基礎所得(ベーシックインカム)の給付
すべての口座について、
毎月口座残高の2~5%分を減価させる。
減価分はいったん基礎所得(ベーシックインカム)基金にプールされた後、
基礎所得(ベーシックインカム)としてメンバーに公平に再分配される。
減価する貨幣
BASICでは、消滅貨幣方式を採用する。これは一定期間毎に一定比率で価値が減少する、というものだ。具体的には、すべての口座について、毎月残高の2~5%分を減価させる、という仕組みである。そして、この減価分は、基礎所得(ベーシックインカム)基金にいったんプールされた後、メンバーに公平に再分配される。また一定期間(たとえば3ヶ月)動かない(支払いのない)口座については、減価率を高める、という手法も検討に価しよう。それは取引の促進とともに幽霊会員の淘汰にも効果を発揮するだろう。
※基礎所得(ベーシックインカム)基金は管理委員会が管理する。
※減価させる比率は取引状況をみながら管理委員会が決定・調整する。
※口座から減価分を引き出す期日、および基礎所得(ベーシックインカム)として再配分する期日は別途管理委員会が決定する。
ところで、なぜ消滅貨幣方式を採るのか、その理由については前述したが、ここであらためてまとめれば次のようになる。
1、退蔵とそれによる貨幣不足、すなわち取引手段の不足の解消
2、消費(取引)の促進
3、貨幣保持者の特権の縮小(それはすなわち生産者の復権でもある)
4、無理な経済成長からくる環境と人間への負担軽減
「あらゆる生産物はその価値を劣化させる。それが自然の摂理であるのなら、貨幣もまた劣化せねばならない」ーーシルビオ・ゲゼル
(7)取引税の徴収と基礎所得(ベーシックインカム)の給付
取引税として取引毎に
一律5~10%を販売者から徴収
基礎所得(ベーシックインカム)としてメンバーに公平に再分配
取引税を基礎所得(ベーシックインカム)の原資に
BASICでは、取引毎に取引税を徴収する。そして、それを原資として、メンバー全員に基礎所得(ベーシックインカム)を給付する。この取引税を負担するのは、販売者側である。すなわち、それは一種の所得税である。ではなぜ、購買者が負担する消費税方式にしないのか。消費税方式にすると、買い物の度「よけいに支払わせられる」感覚が強くなり、購買者の購買動機を低下させてしまうおそれがあるからだ。それでは減価型貨幣がもつせっかくの購買促進効果が相殺されてしまうことになろう。
なおこの仕組みでは、取引が活発化すればするほど、基礎所得(ベーシックインカム)の給付額も大きくなることになる。これはメンバーにしてみれば、取引増大のためのインセンティブとなろう。それはいわば一種のストックオプションとしてメンバー全員の取引動機を高めることになるはずである。
※ストックオプション=上場前のベンチャー企業などが社員のやる気を引き出すため、未公開株を社員に提供する方法。
※税率は取引状況をみながら、管理委員会が決定・調整する。
※基礎所得(ベーシックインカム)を給付する期日は別途管理委員会が決定する。
基礎所得(ベーシックインカム)
「ポスト工業社会の人間がSHEビジョン(健全で人間的でエコロジー的な生き方)の夢を実現するのに必要な基礎的所得を、都市に住む人にも農村に住む人にも一律に給付する基礎所得(ベーシックインカム)」(『21世紀の経済システム展望』/ジェームズ・ロバートソン著/シュマッハー双書)
基礎所得(ベーシックインカム)給付のメリット
●必要最低限の収入が確保されるため、生活の不安からくるストレスが少なくなる。
●生活にゆとりが出るため、自発性の発露が促され、ボランティアや起業、芸術創作など、創造的な活動が活発化する。
●犯罪が減り、社会的なコストがおさえられる。
●富の遍在による有効需要の傾向的低下がくいとめられ、より公平な社会が実現できる。
●一定の市場(有効需要)が毎年確保されるため、企業にとっては景気の変動にあまり左右されずにすむ
(8)円貨との併用
地域通貨は原則として円貨と併用する。
Ex. 円貨:地域通貨=80%:20%
並行通貨制の原則
BASICは、原則として円貨と並行して用いられる。なおBASICの受け入れ比率は、1%~100%まで各事業者が無理のない範囲で、また事業活動にとってもっとも有益と思う比率でみずからの意志で決定してもらう。この並行通貨制のメリットは、次のようなものがある。
1、地域通貨分は実質的な値引きとなり、事業者は市場で優位に立てる(同時に円貨も獲得できる)。
2、円貨獲得が地域通貨使用の最終目的となることで、事業者の使用動機が高まる。
3、円貨を地域内にとどめ、域内での流通を促す効果をもつ(地域通貨による国民通貨の内部化)。
たとえば、ここに同じ農家レストランを営むA社とB社があるとする。A社とB社のBASICの受け入れ比率は、それぞれ20%、40%であったとしよう。その場合、1000円の料理に対して、A社では800円と200cc、B社では、600円と400ccを、それぞれ支払わねばならない。
さて、どちらがより多くの客を集めるだろうか。B社である。なぜなら、A社は円貨を800円を支払わねばならないのに対して、B社では600円しか支払わなくてよいからだ。もちろん地域通貨による支払い分を忘れてはいけない。だが、一般に円貨を獲得するより、地域通貨を獲得することのほうが、比較的容易である。そのため、600円しか円貨を支払わなくともよいB社の方が、最終的に客を集めることとなろう。
もっとも、B社にしても、一定量の円貨は必要であろう。したがって、BAISCの受け入れ比率をどのレベルに設定するかは、その利益構造とからめて最終的に各事業主が決定すべき戦略的な事項といえる。
(9)貨幣発行権について
貨幣発行権は上場組合員に限定
BASICでは、原則として上場組合員のみに貨幣発行権が与えられる。それは、第一にシステムの信頼性を維持するためであり、第二に貨幣流通量を増やすためである。
●システムの信頼性維持
一般に参加メンバー全員に貨幣発行権を付与した場合、フリーライダー(ただ乗り)が出てくる可能性が高い。フリーライダーが多くなると、そこで取引される通貨の信頼性が損なわれ、やがてシステムそのものの崩壊を招いてしまう。そのため、BASICでは、一定の条件を満たす者(ここでは上場組合員)のみに貨幣発行権を与え、信用度の低い一般のメンバーには与えない。ただし、一般メンバーにも一定の上限付で貨幣発行権を与えることは、取引促進の効果をもつ。このあたりは、取引状況をみながら管理委員会がその都度、判断することになろう。
●貨幣流通量の増大
LETS型の地域通貨においては、システム全体としての総取引額は常にプラスマイナスゼロである。ということはつまり、そこでの貨幣発行量は、参加メンバーに対してどこまで貨幣発行を認めるか(赤字を認めるか)に左右される。一方、取引が活発になるためには、それに応じた十分な量の貨幣が必要となる。だが、フリーライダーが出てくる危険性を考えるとやたらに貨幣発行を認めるわけにもいかない。このジレンマを解決するため、BASICでは。一定の条件を満たすメンバー(上場組合員)に限って十分な量の貨幣発行権を与えるようにしている。ちなみにこれは、上場組合がちょうど中央銀行のような存在になるものといえるだろう。
ただし、貨幣発行という特権をもつ上場組合員は、その代わりに一定の義務を負う。以下は、上場組合員の権利と義務、そして上場組合員となる資格である。
上場組合員の権利
●上場組合員は、「担保証書(労働もしくは物財提供を約した文書)」を管理委員会に預け入れ、代わりに額面相当の地域通貨(CC)を受け取ることができる。受け取った地域通貨はメンバーの間で円貨と同様、転々流通する。→WATコアシステム
上場組合員の義務
●上場組合員は、発行額に見合った分を一定期間内に受け入れなければならない。
●上場組合員は、定期的(年1回または半年に1回)に決済会議を開き、互いに収支を調整しあう。●貨幣発行可能額は、前回の発行ー受け入れバランス実績をみながら管理委員会が決定する。●発行ー受け入れバランスが回復不能と管理委員会が判断した場合、資格をはく奪されることがある。
●万一、上場組合員のだれかが債務不履行に陥った場合、他の組合員は連帯してその債務を負わなければならない。
上場組合員の資格
●事業者の中で一定レベル以上の技能をもち、かつ信用力のある者で、最低1人以上のメンバーからの推薦があった場合、管理委員会で討議の上資格を付与する。
(10)Xさんの口座の動きから
7 取引循環イメージ
8 従来の地域通貨の問題点
取引が活発でない
対策
・CtoCからBtoBへ(財・サービスの魅力をアップ)
・交換可能性(流動性)の増大
・消滅貨幣方式による取引促進・円貨との連動による取引促進・信用力向上・基礎所得(ベーシックインカム)給付による運命共同体意識の向上
フリーライダーの存在
対策
・貨幣発行権者を限定・基礎所得(ベーシックインカム)給付による運命共同体意識の向上
決済の手間が大きい
対策
・インターネットおよび携帯での決済を主とし、 さらに代用紙幣(小切手等)を併用
法的問題
対策
・LETS方式・税務処理については別途説明
9 取引促進策
(1)概要
需要者&供給者リストをウエブで公開
DB連動オプトインメール配信&入札システムの利用
地域通貨市場でも販売努力は必要
地域通貨にまつわる問題としてよく指摘されるのは、取引が活発でないということだ。しかし、よく考えてみたい。そもそも事業主側がなんの努力もせず商品が自動的に売れるなどということがあるだろうか。円貨市場においても、事業主は巨額な費用を投じて広告を打ったり、これまた年間何百万円ものコストをかけて営業マンを雇うなど多大な努力を払っていることを忘れてはならない。全国市場で通用する商品を扱っている事業主でさえそうなのだ。ましてや、それほど商品力のないローカルな商品を扱っている事業主が、地域通貨を導入したからといって、何もせずただだまっていて売れると考えるのは、あまりにも虫がよすぎるとはいえないだろうか。
そこで、BASICではメンバー同士の取引を支援するため以下のような需給マッチングサービスを行うことにする。
オンライン
1、需要者&供給者リストをウエブで公開
2、DB連動オプトインメール配信&入札システムの利用
商品の流動性を高める
貨幣と商品をめぐる矛盾の根本をなすもの、それは流動性(交換可能性)の違いである。貨幣はいうまでもなく、いつでもどこでもどんな商品とも交換できる。すなわち、その流動性はきわめて高い。それに対して商品はどうだろう。商品の種類にもよるが、その流動性は貨幣ほど高くない。とくに鮮魚などは、時間とともに商品価値を失っていくこともあり、その流動性はきわめて低い。
この貨幣と商品の間にある流動性格差が問題なのだ。すなわち、一方では貨幣の流動性が高すぎること、そして一方では商品の流動性が低すぎること、それこそが現代の貨幣システムが抱える問題の根源をなしているといっても過言ではない。
その点、地域通貨、とりわけ消滅貨幣という考え方は、貨幣の高すぎる流動性を低下させようという試みであり、一方、この需給マッチングシステムは、商品の流動性を高めようとする試みであるといえよう。
(2)需要者&供給者リストをウエブ上で公開
需給リストをHPで公開
これは、需要者のニーズと供給者のシーズをリストアップ、それらをHP上で公開する方法である。
1、買います(需要者)リストと、売ります(供給者)リストをそれぞれ別ページ立てで構成する。
2、取引される商品・サービスを整理して利用しやすいようにする。
3、分類方法は、種類別、業種別、さらにサービス提供者の場合は上場組合、種類毎、業種毎、毎に分類する。
4、可能であれば、すべてのデータをDBに格納し、キーワード毎に検索できるようにする。
なお、このHPを広告媒体とみなせば、ここからの収益も期待できる。
たとえば、
1、リスト掲載は無料
2、太字リストおよびバナー広告は有料
といった料金体系が考えられる。
※掲載料は円貨でもいいし、地域通貨でもよい。
※掲載料を基礎所得(ベーシックインカム)としてメンバー全員に再分配するという方法もある。
(3)DB連動オプトインメール配信&入札システム
入札の例
プログラムの外注先募集、有機野菜セールの告知等々
HP上での需給リストの公開は、需要者が連絡してくるのを供給者がただひたすら待っている、という意味でいわば「待ち」の営業である。これに対して、供給者が需要者の元へ積極的にPRする、という「攻め」の営業があってもいいはずだ。DB連動オプトインメール配信&入札システムは、こうした攻めの営業を支援するツールである。
その仕組みは以下の通りである。 ※供給者の情報はあらかじめDB化されている。
1、取引(売りたいor買いたい)を求めるA社はHPにアクセスし、取引条件を入力する(入札管理用ページがA社のために自動作成される)。
2、A社が入力した情報は、あらかじめその情報に対してオプトインすることを承諾した供給者(応札企業)のもとへ自動配信される。
3、応札企業は、配信されたメールを読み、取引条件に納得した上で応札する(応札はHP上から可能)。応札情報は、A社の入札管理用ページに自動的に反映される。
4、A社は、入札管理用ページをみながら、どの業者に発注するかを決定する。
なお、使用料を有料とすることで、このシステムからの収益も期待できる。ただし、有料にしてしまうと利用頻度が減ってしまうおそれがある。そのため、たとえば、
1、「買いたい」入札は無料。
2、「売りたい」入札は有料。
とするのも一法であろう。
※使用料は円貨でもいいし、地域通貨でもよい。
※使用料を基礎所得(ベーシックインカム)としてメンバー全員に再分配するという方法もある。
(4)カタログ配付
紙媒体による需給リストを作成し、参加者が容易に入手できるようにする。
入手方法
●店頭や行政スペースなどに置いてもらう
●行政の広報誌などと一緒に各家庭に配付する。
展開方法
●参加者同士の連帯感を培うインナーツールとしての利用も可
●有料の広告スペースをつくり、独立採算が可能なコミュニティビジネスへ成長させる
(5)屋台マーケットの創設
BASICが使用できる屋台マーケットを創設、
フリーマーケット感覚で気軽に出店できる場を提供する。
●屋台は出展者に有料で貸し出す。
●屋台なしのフリースペースもあり。
●休日などを利用して定期的に開催する。
●取引が想定される商品は、農産物、料理、古着、古道具、古本、他一般商材
●トライアルショップとして起業の訓練にもなる。
●代用紙幣の発行所およびネット決済代行サービス窓口を近くに設置する。
●公民館など、常時開放されたスペースであれば、
一種のカタログショップとして訪問者が気軽に手にとれるよう需給リストを展示する。
●出店料は原則として有料(円貨orBASIC)とする。
●出店料、屋台レンタル料などの利益分は基礎所得(ベーシックインカム)基金に組み込む。
BASICは、BtoB型の地域通貨であり、その中核となるのは何らかの財・サービスを生産できる事業者である。しかもその取引がより活発になるためには、高い商品力をもった魅力的な事業主が、できるだけ多く「上場組合員」あるいは「事業主」として参画してもらう必要がある。
そのためには、既存事業者の参画を促すことはもちろん大事だが、それと同時に将来の事業者を育成することもまた重要な課題といえるだろう。そこで、ここでは『屋台マーケット』の創設を提案したい。これは、複数の屋台が集まって創る一種のショッピングモールであり、形式としてはフリーマーケットの延長線上にあるものと考えてさしつかえない。だが、屋台という道具立てを使うことで、現実のショッピングモールに近い存在感と信頼感を打ち出すことができるし、またマスコミなどの話題としても取り上げられやすいというメリットがある。