ベーシックインカムは民主主義を破壊する? ベーシックインカムをめぐる海外の議論
『ベーシックインカムは解決策ではない』という動画のコメント欄で興味深い議論が交わされていましたので、翻訳してご紹介します。
(以下、動画の大意)
誰もが平等に生活費をもらえるUBI(ユニバーサルベーシックインカム)。たしかにいいアイディアだ。
実際、AI(人口知能)ロボットの進化で私たちの仕事の多くがなくなると予測されている。
その解決策として提示されているのがこのUBIというアイディアだ。
しかし果たしてこれはうまくいくのだろうか?
そもそも人類には1万人にわたり、モノの生産とその交換を通して生活を成り立たせて来たという長い歴史がある。
そこで前提になっていたのは、人はなんらかの富、もしくは収入を私的に所有しているということだ。
現代社会で、人々にそうした収入をもたらしているのはおもに労働だ。
しかし、UBIが支給される社会になったら、人は働く必要がなくなる。働かなくなった人は、やがて労働する能力を退化させてしまうだろう。そして労働能力を失った人は政治的影響力も失ってしまうだろう。その結果、社会は旧ソ連のような全体主義国家と化してしまうだろう。
たしかにUBIで貧困は消えるだろう。しかし彼らの政治家への影響力は限定されたものになるはずだ。
貧困対策だけであればなにもUBIだけが唯一の選択肢ではない。たとえば負の所得税といったものもある。
シリコンバレーの大金持ちたちがベーシックインカムを積極的に提唱するのは困ったことだ。
UBIは、実際には一部の大金持ちとそれ以外の人々との間の格差を広げるだけだからだ。その結果、世界の多くの人はシリコンバレーの一部の起業家の思うがままに動かざるをえないだろう。
AIの独占を放置したままのBIはパンドラの箱を開けてしまう可能性がある。それは新しい形の中央集権化とグローバリゼーションをもたらすおそれがある。
何がユニバーサルなのか、何がベーシックなのか、その意味もまたシリコンバレーが決めることになるだろう。
私はUBIが万人に平等に配当されるとは思わない。そこには支配階級の恣意による選別が必ず入り込むだろう。
AIに関する法規制は事実上、一部の大金持ちの利益になるようにできている。その結果、新規創業率は急速に低下している。
UBIは創業のリスクを減少させるという意味で、起業家精神を後押しし、新規創業を増やすかもしれない。
しかしここには問題がある。もし新規創業に過剰な資金が回ってしまったら、その分、UBIに回す資金が不足してしまうということだ。
UBIの支給額が低下すれば、創業への意欲も低下する。
これはビジネスのあり方を歪めることになるだろう。起業家たちは新しい製品を生み出すことにもはや興味を持たなくなるだろう。彼らは代わりにAIデータをもとに利益を生み出すことだけに注力するだろう。それは個人情報に対する絶え間のない侵入を引き起こすだろう。
こうしたビジネスモデルは実体経済を反映しないという意味で、かつて金融危機を引き起こしたサブプライム住宅ローンのようなものだ。
したがってUBIは最終的に経済的クラッシュを引き起こすだけだろう。
(以下、議論)
●(動画主)
多くの人がUBI というアイディアを歓迎していることは知っている。しかし彼らは大きな誤解をしている。それは今のような民主主義がそのまま続いていくという前提でいることだ。私は確信しているが、UBIは西洋の民主主義を終焉させるだろう。これについて君たちはどう思う?
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ubuu7
それは完全に馬鹿げている。
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(動画主)
馬鹿げているというのは、UBIのことかい? それともそれがもたらす結果のことかい?
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ubuu7
UBIが民主主義を終焉させるという君の考え方だよ。それどころか民主主義はかえって強化されるかもしれない。今も政治的無関心層は多いけど、もし誰かがUBIをカットしようとしたなら、そんな人たちでさえ声を上げるだろうからね。
保守主義者やリバタリアンなど、富の再分配に反対する人たちにしてみればたしかに面白くないアイディアだろう。けど、だからといってそれが民主主義の終焉になるわけではない。
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(動画主)
仮にUBIが支給されるようになったとして、その後、一般大衆が何らかの不満を抱えた場合、どうすればいい? ストライキは無意味だ。なぜなら彼らはもともと働いていないのだから‥。もちろん警察や軍隊など圧倒的な国家権力に対抗できるような力もあるわけじゃない。そんな状態で、突然、UBIの支給が打ち切られたなら、それは死の宣告も同じだ。
民主主義は自由市場の存在を前提としている。しかしUBIの再分配機能は自由市場のそれとはまったく異なるものだ。似たような再分配機能をもつ国にサウジアラビアやカタールなどのいわゆるレンティア国家がある。だが、それらの国はどこからどうみても民主国家ではない。
リバタリアンや保守主義者の多くもUBIを支持している。それは複雑になりすぎた福祉プログラムを置き換えるもっとも安上がりな方法だからだ。それが小さな政府を実現することができるからだ。
UBIに関する私の議論は純粋に分析的なものだ。世界を支配する企業がある日突然、利他的になり、人々に富を無償で分配しはじめることはありえない。私はスタートレックのファンだが、それでもそのようなことが今世紀中、いや来世紀になったとしても起こりうるとは思えない。
もちろんAIが社会的に共有されるという前提のもとでなら、UBIのもとでも民主主義が存続する可能性はある。しかしこれはまた別の問題だ。いずれにせよ、今進行中のこの歴史的な技術革命が社会になんの変化ももたらさないというのは想像できない。前回の産業革命は封建制度を消滅させた。今回も同様のことが起こるだろう。
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ubuu7
君はあまりに多くの悲観的な仮定の上に立った議論をしている。しかもその仮定には何の根拠もない。
ベーシックインカムが導入されたからといってすべての仕事がなくなるわけじゃないよ。ほぼ完璧に近い自動化工場であってもそこには必ず何人かの人が働いている。仮に完全な無人工場になったとしても、君にはそれでも選択肢がある。スタートレックの模型を作ることや一切の仕事をやめてただ遊び暮らすことだ。
UBIが導入されたからといって市場が消えてなくなるわけじゃない。アラスカをみてみるといい。アラスカ州の住民は毎年配当金がもらえる。しかし、だからといってアラスカから市場が消えたわけじゃない。むしろUBIは貧困層にもまんべんなくお金を分配することで市場を活性化させるだろう。いまや人々はよりたくさんのお金をその手に持っている。その潤沢なお金は経済的な乗数効果とも相まって市場をさらに活性化させるだろう。
1人の金持ちが年に1億円稼ぐ社会より、10人がそれぞれ1000万円稼ぐ社会の方が、経済は活性化する。サウジアラビアやカタールにはいろいろ問題がありすぎる。それらの国々は開かれた自由な社会ではない。UBIが実現しようとしているのはそのような社会ではない。
会社が利他主義的になる必要はない。高額所得者も同様だ。税金という仕組みは利他主義に依存しているわけではない。税率は社会と政府が決定するものだ。個人や企業が決定するものではない。もちろん後者が影響力を行使することはありうる。しかし、最終的な決定権を持つのは市民だ。市民が代議員を通して決定するのだ。税金を課すことによって社会から不当に利益をむさぼるフリーライダーを排除できるようになるのだ。
これはリバタリアンたちにしてみれば、不本意なことだろう。あるいは彼らは独自のゴールト峡谷(訳者注:リバタリアンの教祖、アイン・ランドの小説『肩をすくめるアトラス』に出てくる規制のないリバタリアンの理想郷)を作り、負担から逃れようと試みるかもしれない。そのような試みが失敗するのは明らかだ。私はそんな彼らが失敗してあたふたする様を見てみたいと願っている。
人工知能ロボットの共有も必要ない。それぞれの企業はそれぞれ人工知能ロボットを所有し、利益を上げればよい。ただし、その利益にはきちんと課税される必要がある。
UBIは市場や社会をいきなりひっくり返そうとするものではない。ほとんどの人は従来通り、働き続けるだろう。ただ貧困ライン周辺、およびそれ以下の人たちがいまよりもっと自由になるというだけのことだ。
UBIはある種の自由を与えてくれる。それは保守主義者が一顧だにしたこともない自由だ。それは何かからの自由ではなく、何かへの自由だ。それは週に40時間以上働く代わりに週に20時間だけ働き、残った時間をよりよい職場への転職活動に当てられるようにする自由だ。それは運転技術が必要な仕事を得るため車を買う自由だ。それは失業の恐怖のない繁栄した地域に移る自由だ。
UBIは今の若い世代に経済的な安定をもたらすだろう。今の若い世代は以前の世代と違い、ユーバーやエアービーアンドビーなどのいわゆるギグエコノミーの中での不安定な仕事しか与えられていない。そうした仕事では安定した生活の基盤を築くことはできない。
それにそもそも彼らの全員がみな勤勉な労働者になれるわけではない。よりスマートな仕事を得るためプログラミングを学ぶ能力がみなに等しく備わっているわけではない。みながみな才能にあふれ、有能なわけではないのだ。UBIはそうした人たちの生活レベルを引き上げる上で大いに役立つことだろう。
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Becky Alexander
私はアラブ種の馬以外、興味はない。政治などどうでもいい。金持ちになることにも権力を持つことにも興味はない。乗馬以外のことには一切関わりたいと思わない。私は毎日、馬に囲まれて生活している。私はそれで十分幸せだ。60年以上にわたる私の人生はずっとそうだったし、これからもそれは変わらないだろう。
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Becky Alexander
われわれの前にあるのは自由な資本主義などではない。われわれの前にあるのは略奪資本主義というものだ。UBIはこの問題を解決するだろう。それは人々と企業、両方ともにメリットをもたらすだろう。
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NorfolkCatKickers
ごめんよ。だけど、君は愚か者だといわざるをえない。負の所得税は実質的に(数学的に)ベーシックインカムと同じものだよ。だから君はトマトに反対するため、トマトをもってそれに置き換えようとするようなものだ。
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Curious112233
UBI以上のよいアイディアがある。それは知的所有権を廃止することだ。大企業が人工知能ロボットを独占的に使えるのはなぜか? 特許を持っているからだ。特許はしばしば競争相手の参入を防ぐ障壁の役目を果たす。その一方で、もし特許がなかったら、誰もがその技術を使って新しいビジネスを始めることができる。とくにスモールビジネスは人々のニーズに直結するサービスを生み出すことができる。そのため、誰もがロボットを所有できるようになれば、必要なものはみなロボットが産み出してくれるという時代になるだろう。そうなればUBIも不要になる。場合によっては政府も時代遅れのものになるだろう。
もし特許を現状のままにしておくなら、貧困にあえぐ一般大衆はUBIを求めて泣き続けるだろう。そうしてUBIを手に入れるためならばと、自らの自由さえ国家権力に差し出してしまう可能性もある。しかしもしわれわれが特許を廃止したなら、人々はその技術を使って自分の欲しいものを手に入れるだろう。その上、そのために自分たちの自由を犠牲にする必要もないのだ。
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Lionel Switch
UBIは現状のセーフティネットの硬直性を破壊することで自由を作り出す。君のリバタリアン的な考え方はアイン・ランドの影響だろうけど、それは機能しないだろう。なぜなら君は賃金に対するインフレ圧力とは無縁な資本家階級がもたらす収入格差の問題に焦点を当てることを拒否しているからだ。自由は新しいセーフティネットを作り出す。それは硬直性を取り除き、賃金に弾力性を与えるきっかけを生み出す。君のプランにはこのことが欠落している。
(訳者注:わかるようなわからないような、抽象的すぎる表現ですね。しかし憶測で意訳しても誤訳の恐れがありますのであえて直訳しました)
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Curious112233
ここで明確にしたいのは、UBIはいかなる自由も産み出さないということだ。むしろ今より不自由になるかもしれない。UBIの裏には何万ものわけのわからない法律がくっついてくるはずだ。そのため、もし国家権力が君のUBIをカットしようと思ったなら、そのための方策を見つけることなどいともたやすいことになるだろう。さらにもし万人がUBIに依存するようになれば、支配者たちは君らの声にますます耳を傾けないようになるだろう。
収入の格差についてはすでに説明したつもりだが、もう一度説明しよう。将来、万人がロボットを所有するようになれば、万人のニーズはそれぞれのロボットが満たしてくれるだろう。ここで重要なのは、ロボットが誰のために働いているのか、ということだ。その時点でもし特許が存続していたとすれば、それは結局、特許の所有者に利益をもたらすことになる。つまりロボットはその特許を所有する一部の金持ちのために働いているということになる。
しかし、もし特許が廃止できれば、ロボットはその持ち主のためにのみ働くことになる。そしてそうなればわれわれにはもはや会社も政府も必要ない。当然、国家も憲法も自然消滅するだろう。そうしてわれわれは究極の自由をエンジョイすることができるようになるのだ。