むしろ人はより活動的になる 人類学の知見が示すベーシックインカムがもたらす影響 

「食事をおごる」という行為からもわかるように、人は「贈与すること」で相手の優位に立とうとすることがある。もちろん相手はその贈与に見合うだけの返礼をしない限り、贈与者に対して劣位に立つことになる。これはポトラッチの名でも知られる人類共通の互酬原理である。

ベーシックインカムもある意味、社会という他者からの贈与である。であれば、ベーシックインカムの受給者がその社会からの贈与に対して何の返礼もしないでいるとは考えづらい。おそらく健全な精神を持つ人ならば、ほとんどの人が社会ーーもしくはその代わりとしての他者ーーに対して何らかの返礼をしようと自らを奮い立たせるはずだ。

ここからもわかるようにベーシックインカムが実施されると人は怠け者になるという懸念は杞憂というべきだ。むしろ人々はベーシックインカムという社会からの贈与に応えるためーーあるいはその負債を帳消しにするためーーよりいっそう働くことで社会に恩返しをすることだろう。

といってももちろん、それは市場経済におけるお金を媒介とした「労働」という形態をとるとはかぎらない。なかには寝たきりの家族の世話をするといった非市場的な労働の形でそれをする人もいるだろう。あるいは隣近所に自ら作った野菜や手工芸品をただで配って歩く人も出てくるかもしれない。そして、そうした非市場的な活動もまたーーGDPには計上されないもののーー社会を確実に豊かにすることになるのだ。