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ベーシックインカムは通貨改革とセットで

   

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basicincomeベーシックインカムに関する新しい視点からの論文がありましたのでご紹介します。

従来の議論は、福祉国家をめぐる左右の綱引き的なそれにすぎない。ベーシックインカムは通貨改革とセットで行われてはじめてその本来の効果が発揮されるという主張です。

私も筆者と同様、最終的には通貨改革にまで踏み込まないとだめだろうと思っています。とくに貨幣の退蔵に持ち越し税をかけるゲゼルマネー、あるいは政府通貨というどちらかのポイントを抜きにしては仏作って魂入れずになってしまうだろうと思います。

政治的行動へ向かうベーシックインカムの課題 〜ベーシックインカムの現在から未来へ

白崎一裕さん(ベーシックインカム・実現を探る会代表)

2010年前後に論壇を中心に議論されていたベーシックインカムは、2016年になって再び、その動向に注目が集まっている。理由は、2016年6月5日にスイスでベーシックインカムを憲法条項に加える国民党投票が行われたからだ。
ベーシックインカムとは何か?改めて簡単に説明しておこう。日本語にすると「基礎所得保証」「基本所得」。別の言い方で「市民所得」「国民配当」ないし「社会配当」という呼び方をすることもある。中心にある思想は、極めてシンプルな政策提言だ。現行の日本の福祉政策でとられているような世帯単位、生活保護費のような資力調査・労働能力調査などの支給条件が、まったくない「個人単位・無条件」の「所得保証政策」のことである。想像してみてほしい。毎月毎月、一定額(理論的には10万円前後)の現金があなたの預金口座ないし現金書留で支給される世界を。
冒頭に述べたように、このベーシックインカムがスイスで国民投票にかけられた。スイスの国民投票は、連邦議会の法律の賛否を問うレファレンダムと10万人の署名を18か月以内に集めて市民が直接、憲法改正発議のできるイニシアチブの二種類がある。今回のベーシックインカムは後者のイニシアチブによって実施された。最初は、映画監督のエノ・シュミット氏とダニエル・ハニ氏の二人から出発したベーシックインカム・イニシアチブ運動は、その後、広がりをみせ国民投票にまで持ち込むことに成功した。
結果は、76.9%の反対と23.1%の賛成ということで、残念ながら否決された。しかし、この運動は世界に大きな問題提起をすることになったのだ。スイスでの提案は、一人当たり、日本円で約30万円の支給案だった(子どもは半額支給)、そして、このための膨大な財源は、社会福祉費の統合と整理およびある程度の増税によるものというものだった。スイスでは、これらをめぐって、労働意欲、財政問題、移民問題などなど、これまでもベーシックインカムの議論で論争が交わされてきた様々な課題が議論されることとなったのである。
また、この前後には、このスイスの動きとほぼ共時的に、ベーシックインカムの新たな動きがあった。それは、フィンランド、オランダ、カナダでのベーシックインカム実験導入の試みである。フィンランドは、シピラ首相の指導の下、ベーシックインカム実証実験が2017年初頭から2年間の予定で行われる。現行の生活保護受給者から2000人を無作為に選んで、約7万円(560ユーロ)を支給して、現行の社会保障制度との比較を試みるものだ。次にオランダである。オランダは、地方都市ユトレヒト市において、生活保護受給者250人を対象として2017年から2年間、一人当たり約11万円(960ユーロ)を支給して、労働意欲などの影響調査を行う。これと似たベーシックインカム導入実験は、カナダのオンタリオ州でも計画されている。これ以外でも、イギリス労働党の政策にベーシックインカム、アイスランドなど欧州で躍進する海賊党がベーシックインカム支持、イタリアの五つ星運動がベーシックインカムと類似した「負の所得税」政策を支持、ドイツの市民がクラウドファンディングでBI支給のための資金を募るなどの動きが、欧州を中心に広がりをみせている。
また、日本国内でも、岩手県遠野市とあるベンチャー企業が協働して次のような広告をWEB上にアップした。『2016年は、10のプロジェクトテーマで起業家を募集し、選考いたします。「遠野市に住民票を移すこと」「地元の資源を活かして起業すること」を条件に、3年間に限り月額約14万円のベーシックインカムを支給します』この10のプロジェクトには、ローカルブルワリー(ビール醸造)・限界集落・産前産後ケア・里山経済システム・超低コスト住宅開発・食・などのテーマが並ぶ。これまでの融資制度ではなく、限定的ではあるがベーシックインカムを支給するというのがユニークだ。
直接現金給付ということで言えば、現在の安倍政権でも、低所得者に15,000円の一時金を給付するということを検討している。
これまで、紹介したように、2016年現在において、ベーシックインカムの議論は、確実に、実践の場へと移行しているといえる。しかし、これは、必ずしも好ましい状況とばかりも言えない。

その危惧する点を箇条書きにあげておこう。
1、2010年前後のベーシックインカムの議論のレベルから深化していない。例えば、ベーシックインカムが支給されると働かなくなるのではないか?巨額の財源をどうするのか?などの議論が、深まることなく、続いている
2、1のことと関連するが、欧州を中心に実験的導入の計画があるベーシックインカムは、すべて、福祉制度を現金給付を中心に統合削減して、ベーシックインカムに置き換えてしまおうという発想になっている。現実には、ベーシックインカム以外の現金給付・現物給付などの福祉制度は必要になるのだが、ベーシックインカムがそれらの福祉制度の削減に利用されている感がある(これは、前述したようにスイスの場合も同様だった)。
3、1および2に共通している議論の課題は、ベーシックインカムを福祉国家のパラダイムで語ることの限界である。2010年時点では、ベーシックインカムは、左右の党派を超えて議論できる社会政策という触れ込みだった。しかし、これは右派的新自由主義と福祉国家底上げの左派的議論が福祉国家という枠組みをめぐって綱引きをしていたにすぎない。ここで欠落している視点は、そもそも「福祉国家」の存在自体が解体しつつあるということだ。第二次世界大戦後の「福祉国家」の枠組みを作ったとされる、ケインズ・ヴェバリッジ福祉国家体制におけるヴェバリッジ報告(1941年)によれば、福祉国家とは、常に右肩上がりの経済成長が前提であり、男性稼ぎ手とそれをケアする女性家事労働の役割分担のもと、男性稼ぎ手が何らかの理由で、労働が不可能になったとき、保険と年金で労働市場を維持しようとするものであった。現在、この家父長制的労働は変容し、家族の在り方も多様化している。そして、そもそも経済成長は完全に鈍麻しているのだ。経済成長を前提としてきた福祉国家とは別の枠組みをベーシックインカムがつくることができるかどうかが問われている。
4、先に述べた、安倍政権の「現金給付政策」のように、現行の政府経済政策の行き詰まりを目くらまし的に誤魔化す手段として、偽(にせ)のベーシックインカムとして悪利用される。

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これらの危惧を解決するためには、筆者が以前から述べているように、ベーシックインカム単独政策ではなくて、通貨改革と組み合わせて、通貨改革の一環としてベーシックインカムを導入することが必要となる。
通貨改革を説明するためには、リーマンショック後に米国・欧州・日本などでおこなわれてきた「量的緩和政策」の行き詰まりを説明した方がよいだろう。特に我が国のアベノミクスなるものの破たんの現状からみていきたい。日銀の量的緩和政策は、年間80兆円もの国債を市場から買い入れ資金を放出している。結果として日銀の国債保有高は400兆円になり、累積国債発行額全体の838兆円の48%をも保有している。この現象を財政ファイナンスではないか、すなわち、日銀が政府財政のATMとなっているといった指摘もでてきている。しかしながら、ここにいたっても、日銀のいう、物価上昇2%にはおよばず、国債を日銀に売った資金は、そのまま、日銀内の各市中銀行の当座預金に「ブタ積み」と言われる現象となって溜まっているにすぎない。その総額は312兆円にもなる。ベースマネーと言われる、紙幣(硬貨を含む)と日銀当座預金の総量を増やしても、それで、マネーストック(通貨供給量)は、ほとんど増えなかったという結果なのだ。
国債については、次のことを指摘しておきたい。説明するまでもなく国債は負債である。2016年度の国の歳出予算総額96.7兆円のうち24.4兆円が国債の利払いや借り換えの費用として計上されている。また、歳入をみると予算総額の35.6%にあたる34.4兆円が国債発行で占められている。税収で賄いきれないから借金(国債)をし、また、その中から返済をするという自転車操業をしているわけである。量的緩和政策は、この自転車操業の先延ばしをしているにすぎない。国債発行をしなければ、国家財政が回らない現在、国民の税金は、国民のためではなく、国債を買っている金融機関や投資家のへの負債返済のために使われるシステムの中心物になっている。国家は借金返済のための道具に成り下がっているのだ。
こんな「負債国家」体制を変換しようというのが、通貨改革による政府通貨(公共通貨)発行である。金融技術的には、幾種類かの方法があるが、ここでは、最近、新聞紙上をにぎわせた「ヘリコプターマネー」の方法をみてみよう。ヘリコプターマネーとは、ミルン・フリードマンがインフレ克服のための思考実験として発表したものだが、政策プランとしては、次のような事が考えられる。まず、「無利子の永久国債」を発行して、その「永久国債」を日銀に直接引き受けさせる。このメリットは、永久国債なので返済の必要がないということと、国債は市場から買受けて市中銀行に溜まるということはなく、直接、国庫に資金を送ることができるということがある。この資金を政府が社会保障などの公的な事業に使うことができるようになるわけだ。これは、政府通貨発行と同じことになり、政府に通貨発行権が移行するということになる。
そして、特記する点は、このヘリコプターマネーでベーシックインカムの財源および他の社会保障政策の財源が担保されることになり、先に述べた、崩壊しつつある福祉国家に代わる展望がひらけてくることである。もちろん、インフレ調整のための通貨供給のコントロールは注意深く必要になる。だが、量的緩和政策で、現在でも、年間80兆円もの国債を「無駄に」買い入れているわけである。金融技術的には何ら問題はない。
ヘリコプターマネーなどの通貨改革は、現在の負債経済=銀行マネー=利子付き負債経済を転換する政策提言であり、その通貨改革を個人の購買力を補強する側面で支えるのがベーシックインカムということになる。特に、AI(人口知能)の登場により、部分的に労働現場が消失して購買力不足が顕著になることが予想される中、労働とは分離して個人の購買力不足を補うベーシックインカムは、歴史の必然的な社会政策だと言えよう。
(現在の金融資本主義が負債経済であることの詳細な説明は、紙面の関係で今回は省略するが、現在流通しているマネーの9割以上が、銀行信用創造による預金通貨で占められていることを指摘しておきたい。)
実は、冒頭に述べた、ベーシックインカムとは別に、政府通貨の政治的・市民運動的行動も世界中でおきている。スイスでは、MOMOという通貨改革グループが、ベーシックインカム国民投票と同様の10万票以上の署名を集め、国民投票の可能性がでてきた。また、リーマンショック金融危機以後、金融資本に支配されない国家改革を民衆レベルで進めてきているアイスランドでも、政府通貨の政策レポートが出された。このレポートについては、ベーシックインカム・実現を探る会のHPにも翻訳をアップしてある※1。これと同様の議論は、オランダでも始まっている。
最近、スイスのベーシックインカム国民投票のリーダーであるエノ・シュミット氏を取材してきた人の話によれば、エノ氏は、MOMOなどの通貨改革グループとつながり、通貨改革とベーシックインカムの統合的運動が必要だと語ったらしい。慧眼である。今後のベーシックインカム運動は、この通貨改革運動とセットで進めていくことが重要となるだろう。そして、それは、グローバル金融に脅かされてきた民主主義の再構築にもつながる政治運動となるはずだ。
実は、20世紀初頭にクリフォード・ダグラスという経済思想家が、通貨改革とベーシックインカムの統一したプランを「社会信用論」として発表して大きな影響を及ぼしている。私たちは、このダグラスの遺産を現在に生かしていくべきなのだ。詳細は、ベーシックインカム・実現を探る会HP「関曠野氏講演録」をご参考にしていただきたい※2。

元記事はこちら

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